コーヒーを飲むとき、コーヒーの上に油の膜ができていたり、コーヒー豆の表面がつやつやと光っていることがあります。
これらは、コーヒー豆から出た油で「コーヒーオイル」と呼ばれています。
コーヒーオイルは、味と口当たりが変わるだけでなく、心身への効能もあるため「アロマオイル」としても使われ、さらには美容効果もあります。
一部で「コーヒーオイルは体に悪い」と言われていますが、結論から言うと一般的な摂取量なら問題ありません。
ここから、コーヒーオイルの特徴や健康効果などについて、わかりやすく解説します。
ブログ管理人:山口 誠一郎
コーヒーの専門家としてTV出演。文藝春秋(文春オンライン)コラム掲載。1,000種以上のコーヒー豆をレビュー。イタリア「Caffè Arena Roma」元バリスタ。
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コーヒーオイルとは豆に含まれる油脂のこと
▲袋の中がテカテカしていますが、これがコーヒーオイルです。
コーヒーオイルとは、コーヒー豆に含まれる油脂のことです。
サラダ油の原料になる大豆には20%、菜種には40%の脂質が含まれていて、絞ると中の油が採れます。
大豆や菜種ほどではありませんが、同じ植物の種であるコーヒー豆にも10~16%の脂質が含まれています。
生豆の状態でもコーヒーオイルは含まれている
▲コーヒー生豆の状態ではカサカサしていて、油っぽさはありません。
コーヒーオイルは、焙煎する前の「生のコーヒー豆」が本来持つ成分です。
生のコーヒー豆の表面はカサカサと乾いたような見た目で、オイルを含んでいるようには見えません。
しかし、実際は10~16%の油脂が含まれています。
その約75%は、大豆油やごま油など一般的な油と同じ油脂で、リノール酸・パルチミン酸などの脂肪酸とグリセリンがつながってできています。
コーヒー豆の特有の油脂としては、「カフェストール」や「カフェオール」などがあります。
乾いたように見える表面にも、わずかですが「ワックス(ろう)」の形で油脂がついています。
コーヒーオイルができる理由
コーヒー豆を焙煎すると、豆の組織が壊れて油脂が外に出てきます。
深煎りの豆が光って見えるのは、このためです。
浅煎りや中煎りの豆は深煎りほど表面には出ていませんが、挽いてお湯を注ぐと、油脂がコーヒー液と一緒に流れてカップに入ります。
水より軽い油脂はカップの中で上に浮くので、ここではっきりとコーヒーオイルが目で見えるようになります。
ただし、ドリップコーヒーの場合は抽出中にコーヒーオイルがドリッパー内の上に溜まるため、下に落ちてカップに入るのはごく一部です。
▲ドリップコーヒーの場合、お湯を注ぐと油脂は水よりも軽いため、上にたまる
圧力をかけて抽出する「エスプレッソ」は、ドリップコーヒーより多くのコーヒーオイルが入ります。
エスプレッソの泡の層「クレマ」も、コーヒーオイルの中に空気が入ってできています。
▲エスプレッソの上の「クレマ」も、コーヒーオイルの中に空気が入ってできている
深煎りだからオイルが多く出るわけではない
深煎りの豆の表面はコーヒーオイルでつやつやと光っていて、触ると手にもオイルがつくのがわかります。
一方、浅煎りや中煎りの豆の表面はカサカサしているので、コーヒーオイルが少ないように思えます。
深煎り豆が光って見えるのは、焙煎過程で豆の組織が破壊されて内部に閉じ込められていたオイルがにじみ出てくるためです。
また、コーヒーを抽出すると表面のオイルがコーヒー液に混ざるので、抽出後のコーヒーは深煎り豆の方がオイルが多くなります。
このようなことから、深煎り豆にはコーヒーオイルが多く含まれているような気がしてしまいますが、実際は浅煎り豆も内部に同量のコーヒーオイルが含まれています。
コーヒーオイルは焙煎によって作られる物質ではなく、1粒の豆に含まれる油の量は生豆のときも焙煎後も変わっていないのです。
コーヒーオイルの特徴
コーヒーオイルは、コーヒーの味わいや香りに影響を与え、アロマオイルのような効能を持つという特徴があります。
その特徴を詳しく見ていきましょう。
コーヒーオイルによって味と香りが変わる
コーヒーオイルに含まれる香りの成分は、単独でコーヒーらしい香りがするものもあれば、単独ではコーヒーとかけ離れた香りがするものもあります。
その数は700~800もあり、様々な香りが混ざり合って、コーヒーの香りを作り出しています。
香りの成分の中には油に溶けやすいものもあれば、水に溶けやすいものもあります。
ですので、もしコーヒーオイルを完全に取り去ってしまうと、油に溶けやすい成分の香りがなくなり、コーヒーの香りが変化してしまいます。
また、コーヒーオイルは舌や口の中に長く留まるため、「コク」のもとになり、「なめらか」「リッチ」「クリーミー」などと表現される口当たりを作り出します。
逆にコーヒーオイルが少ないと軽くあっさりしたコーヒーになります。
このように、コーヒーオイルはコーヒーの味わいや香りに大きく影響するのです。
アロマオイルとしても使われる
コーヒーオイルは、オイルに含まれる多様な香りの成分により、コーヒーの風味だけでなく心身への効能も期待されています。
アロマオイルは、植物の成分と香りの効果で心身をケアするアロマテラピーに使われます。
例えば、ラベンダーの香りのアロマオイルは安眠効果、ヒノキの香りはリフレッシュといったようにそれぞれ効能があります。
コーヒーオイルにも、落ち込み・不安や緊張を取り除いたり、呼吸器系の不調、吐き気・熱・痛みを緩和したりといった心身への効能があることから、アロマオイルとして使われています。
コーヒーオイルは体に悪い?
結論
- コーヒーオイルによるコレステロール上昇は一過性のもの
- 日常の摂取レベルでは長期的な高脂血症や高血圧の原因には結びつかない
詳しく解説します。
一般的な摂取量なら影響はない
コーヒーオイルは体に悪いのかという話題は1990年代に大きく注目され、様々な実験が行われましたが、現在では一応の結論が出ています。
それは、確かに体に悪い影響を与える成分もあるが、一般的な摂取量なら影響はないということです。
体に悪いのは「カフェストール」と「カフェオール」という成分で、この2つは血中コレステロールを上昇させる働きがあります。
ただし、コーヒーオイルは抽出方法によって、実際に飲む量が大きく変わります。
以下は、ある実験で1杯あたりのカフェストールの量を測った結果です。
抽出方法 | カフェストールの量 |
煮出したコーヒー・トルココーヒー・フレンチプレス | 6〜12mg |
ドリップコーヒー | 0.2〜0.6mg |
上記のように、コーヒーメーカーやハンドドリップといった「ドリップ式」では、カフェストールがほとんどカップに入らないことがわかりました。
▲フレンチプレスはドリップコーヒーと比較して、カップの中のオイルの量が多い(カップの淵に溜まっているのがオイルです)
▲ドリップ式では、水より軽いオイルがドリッパーの上の方に集まり、カップにほとんど落ちない
ですので、普通にコーヒーを楽しんでいる人がコーヒーオイルを極端に避ける必要はないのですが、それでも気になる人はドリップ式で淹れるとよいでしょう。
フィンランドでは心臓病の死亡率が下がる
▲ フィンランドで日常的に飲まれている「煮出しコーヒー」
ちなみに、日常的に煮出したコーヒーが飲まれていたフィンランドでは、ドリップ式への切り替えを推奨したことで心臓病の死亡率を他の国並みに下げることに成功しています。
煮出したコーヒーというのは北欧の昔の淹れ方で、やかんに水とコーヒー粉を直接投入して沸騰させるという独特の方法です。
コーヒーオイルの酸化には気をつける
▲このような密閉されていない袋のまま放置すると酸化が早まります
ただし、豆を密閉状態にせず放置したり、直射日光や外気に触れる場所に置いておくなど、保存状態が悪いと脂質が酸化して体に悪いのは言うまでもありません。
コーヒー豆は密閉して冷凍するなど鮮度にも気を使いましょう。
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コーヒー豆の冷凍におすすめの保存容器はこれ!解凍は必要なし
コーヒーオイルは美容に良い(保湿・美肌)
引用:3 Reasons Why You Need Coffee In Your Skincare Routine
コーヒーオイルは、肌や髪の美容・健康のためにも使うことができます。
コーヒー大国として知られるブラジルでは、様々なブランドのコーヒーエッセンシャルオイルが作られていて、主にマッサージオイルにブレンドして使われています。
成分としては、リノール酸・パルミチン酸・オレイン酸などの脂肪酸と、微量ですがカフェインが挙げられます。
- リノール酸→保湿効果、髪や爪にも有効
- パルチミン酸→肌の健康に重要なビタミンAを安定させる
- カフェイン→皮膚を柔らかくしてセルライトやむくみの解消を助ける
コーヒーエッセンシャルオイルの多くは、濃厚なコーヒーそのものの香りがして、頭をすっきりさせたり、気持ちにエネルギーを与える効果もあります。
コーヒーの香りで活力を得たい人や、肌の乾燥やむくみなどが気になる人は一度試してみると良いかもしれません。
コーヒーオイルを楽しむ抽出方法
油脂分であるコーヒーオイルはお湯より軽く、抽出中は上の方に溜まります。
この性質を利用して、コーヒーオイルを楽しむ抽出方法をご紹介します。
フレンチプレスで抽出すればコーヒーオイルの量が多くなる
フレンチプレスで抽出するとコーヒーオイルがカップに多く含まれる
フレンチプレスは、器具にコーヒー粉を入れてお湯を注ぎ、しばらく浸す抽出方法です。
抽出後は内部のフィルターでコーヒー粉を押し下げるので、コーヒー粉は下へ、コーヒー液は上に溜まり、コーヒーオイルは液の一番上に浮きます。
注ぎ口は上にあるので、この状態でカップに注ぐと、一番上に浮いているコーヒーオイルが直接カップに入ります。
フレンチプレスは、コーヒーオイルの香りやコクを楽しみたい場合に、非常に効率的な抽出方法です。
なお、写真の器具は割れにくくて丈夫な「HARIO (ハリオ) カフェプレス スリムS 1~2杯用」です。
ネルドリップコーヒーは独特のオイル感が楽しめる
ネルドリップのフィルターは紙のフィルターと比べて目が粗く、より多くのコーヒーオイルがお湯と一緒にカップに流れ落ちていきます。
ネルドリップならではの「まろやかなコク」は、コーヒーオイルによって作り出されているのです。
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