みなさんはカフェでエスプレッソを頼んだことがありますか。
エスプレッソを飲んでみたら苦いだけだったとか、一部のコーヒー通が飲むものという印象があるかもしれません。
ところが本場イタリアでは老若男女を問わず飲まれるポピュラーな飲み物で、本当に美味しいエスプレッソは苦味がほとんどなく、円やかでフルーティーな香りさえ漂います。
本記事では、イタリアでエスプレッソの味わいを生み出している背景や、エスプレッソが格段においしくなるイタリア流の飲み方について紹介します。
ブログ管理人:山口 誠一郎
コーヒーの専門家としてTV出演。文藝春秋(文春オンライン)コラム掲載。1,000種以上のコーヒー豆をレビュー。イタリア「Caffè Arena Roma」元バリスタ。
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エスプレッソとは
エスプレッソとは高い圧力をかけて短時間で抽出した濃いコーヒーです。押し固めたコーヒー粉に専用のマシンで9気圧の圧力をかけて抽出します。
エスプレッソは、イタリアでは街のあちこちにある「バール(bar)」で提供されます。バールは立ち飲みのカウンターを備えたイタリアのカフェで、夜にはお酒も提供します。
カプチーノやマキアートなど、すべてのコーヒーメニューはエスプレッソをベースにミルクやクリームなどを加えて作ります。
エスプレッソの濃度はドリップコーヒーの約8倍です。小さなカップに香りとコクがギュッと濃縮されていて、おいしいエスプレッソは飲んだ後も1時間ぐらい余韻が続きます。
逆に、苦味と酸味のバランスが少しでも崩れたり雑味が出てしまえば、大きく味わいを損ねてしまいます。
圧力をかけるためにマシンを使いますが、おいしく淹れるにはバリスタの修練も必須です。
たった20~30秒で抽出されてしまうので抽出時間が1秒違うだけでも味わいに大きく影響します。
マシンの調整はもちろん、豆の選定とブレンド、挽き具合、コーヒー粉をホルダーに押し固める加減などすべての工程において繊細さが要求されます。
エスプレッソには「イタリア系」と「シアトル系」がある
エスプレッソには「イタリア系」と「シアトル系」があり、日本ではスターバックスのようなシアトル系のカフェが主流です。
シアトル系のエスプレッソは、シロップやクリームなどのアレンジに合わせて苦みや香ばしさのある深煎りのコーヒー豆を使います。深煎りの豆のエスプレッソをそのまま飲むと確かに苦いため、日本では「エスプレッソは苦いもの」というイメージが定着してしまったのかもしれません。
しかし、イタリアのエスプレッソは日本でいう「シティロースト」~「フルシティロースト」レベルの豆を使います。
そのためイタリアのエスプレッソは苦味が少なく、味わいも円やかで、適度な酸味や豆自体の香りが豊かです。
さらにイタリアだけでなく世界ではエスプレッソに砂糖を入れるのが普通です。エスプレッソは苦いのを我慢して飲むものではなく、マイルドなキャラメルのような甘さを楽しむデザート感覚の飲み物です。
エスプレッソに欠かせない「上質なクレマ」
おいしいエスプレッソに欠かせないのが、きめ細やかな「クレマ」です。クレマとは、エスプレッソのいちばん上にできる、とろっとしたクリームのような泡のことです。
クレマは、圧力をかけてエスプレッソを抽出するときにコーヒー豆に含まれる油分と二酸化炭素が混じり合って形成されます。
クレマにはコーヒーの油分に含まれる香りの成分が閉じ込められています。口に含むと香りが一気に広がり、下の液体と一体になって豊かなコクを感じます。
しっかりしたクレマの層は、砂糖を入れると粒がクレマの上で一瞬止まります。また、クレマの泡がきめ細かければ、砂糖が沈んだ後すぐにクレマが元に戻ります。
このような上質なクレマを持つエスプレッソは飲んだ後も香りとコクの余韻が続きます。
イタリアのエスプレッソに使うコーヒー豆は「ロブスタ種」を含む数種類をブレンドしますが、香りや風味だけでなく上質なクレマがしっかり出せることも考えてブレンドされています。
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地域によってエスプレッソカップの特徴が異なる
イタリアでエスプレッソを頼むと、とても小さな卵型のカップに入って出てくることが多いです。
卵型はマシンでエスプレッソを勢いよく注ぎ入れたときに、カップの中でコーヒー液がうまく循環するデザインです。
イタリアエスプレッソ国立研究所はカップの形状について4つの条件を示している
イタリアにはエスプレッソの品質を守る「イタリアエスプレッソ国立研究所」という機関があり、エスプレッソの泡立ちと香ばしさやなめらかさを味わえる最適なカップの形状について、次のような条件を示しています。
- ⽩い陶器のカップ
- カップの内側に装飾がない
- カップの形状が楕円形であること
- カップの容量は50〜100ml
エスプレッソ用のカップの形は同じでも厚みは地域によって異なります。エスプレッソが甘酸っぱく軽やかな味わいの北イタリアでは、コーヒーの香りを感じやすい薄いカップを使います。
一方、野生的な風味をもつロブスタ種のコーヒー豆をブレンドした、力強い味わいのエスプレッソが好まれる南イタリアでは、味の感じ方を和らげる厚みのあるカップが多く、中には厚さ1cmというカップも使われています。
本場イタリア流エスプレッソの飲み方
イタリアでは街のあちこちに小さなバール(bar)があります。人口で換算すると日本の喫茶店数よりはるかに多い割合です。
立ち飲みでのエスプレッソ価格は、1杯あたり1.5ユーロ(200円)程度です。
日本人にとっての缶コーヒーやコンビニコーヒーのような気軽さで、バリスタが精魂込めて調整した淹れたてのエスプレッソを飲めるのです。
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イタリア人は1日に5〜6杯はエスプレッソを飲む
イタリア人は1日に5〜6杯はエスプレッソを飲んでいます。
都心部で働くイタリア人だと、朝は出勤途中にバールに立ち寄り、エスプレッソとミルクをあわせたカプチーノを朝食代わりに飲んでいきます。
その後は普通のエスプレッソのことが多く、午前中の休憩のとき、昼食後、午後の休憩や夕方など、1日のうちの何度もバールに足を運びます。
エスプレッソには「express(急行)」という意味があります。日本の喫茶店では時間をかけてドリップしたコーヒーをゆっくり味わいますが、イタリアのバールで飲むエスプレッソは、抽出も飲むときもまさに急行列車のようです。
バリスタは注文を受けてから1分も経たないうちにカップに入ったエスプレッソをお客の前に置いてくれます。
お客は次の瞬間には、砂糖を投入し、3口ぐらいで飲み切ります。エスプレッソは抽出したてが一番美味しいからです。
砂糖もほとんどかき混ぜず、溶け切っていない状態で飲むので底に溜まりますが、残った砂糖をスプーンですくって食べるという楽しみ方もイタリアならでは。
ミルクをたっぷり使ったカプチーノはお腹に溜まるので朝に飲むものですが、泡立てたミルクをトッピングしたマキアートなどは、エスプレッソと同様に1日中飲まれています。
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イタリアのバールにはカフェインレスコーヒー(デカフェ)も常備
また、イタリアのバールではカフェインレスコーヒーも常備してあり、エスプレッソやカプチーノなどの一通りのメニューをカフェインレスコーヒーで注文することができます。
妊婦さんやカフェインに弱い人だけでなく、午前中は普通のコーヒー、夕方や夜は睡眠の妨げにならないようにカフェインレスを頼むなど1日の中で分けて注文する人もいます。
ちなみにエスプレッソは濃いのでカフェインも多いと思いがちですが、1杯の抽出量が少ないのでカフェイン量はドリップコーヒーの約半分になります。
エスプレッソのカフェインは1杯30mlあたり30~50mgに対し、 ドリップコーヒー150mlは60~90mgです。
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イタリアのエスプレッソには10の評価項目がある
イタリアには「認定イタリアンエスプレッソ」として上のようなマークがついたコーヒーや、それを提供する店があります。
認定機関は、エスプレッソの伝統と品質を守るために設立されたイタリアエスプレッソ国立研究所です。
マシン・専用グラインダー・資格のあるバリスタ・コーヒー豆の4点で基準を満たし「認定イタリアンエスプレッソ」の提供者として認証された店は、10の項目に基づき定期的に味わいをチェックされます。
1.クレマの色 2.クレマのきめ細かさ 3.アロマ(香り)4.ロースト 5.コク 6.酸味 7.苦味 8.渋味(がないこと)9.全体のポジティブな香り 10.全体のネガティブな香り(がないこと)
- クレマの色はヘーゼルナッツ色~こげ茶色に近い色合いであること
- クレマはきめが細かく、密度が高く、泡の大きさが均一であること
- 果物・トースト・チョコレートのような強烈な⾹りが強く⿐に抜けること
- 以上の感覚が飲み込んだ後も、数秒~数分間持続すること
- 味わいはまろやかでコクがあり、滑らかであること
- 酸味と苦味のバランスがよく、どちらかが優勢に感じられないこと
- 渋みは全くないか、ほとんど感じられないこと
- 全体としてポジティブな香りが感じられ、ネガティブな香りが感じられないこと
本場イタリアのエスプレッソの味わいはこのような評価で厳しく品質が守られているのです。
イタリア流エスプレッソを家で美味しく入れる方法
エスプレッソを自宅で淹れるにはセミオートや全自動のエスプレッソマシンか、もしくは直火式エスプレッソメーカーの「マキネッタ」と呼ばれる抽出器具を使います。
エスプレッソマシンには電動式や手動式があります。お店のようなエスプレッソを毎日飲みたい人は電動式、時間をかけて抽出の過程を楽しみたい人には手動式がおすすめです。
イタリアの7割の家庭で使われる直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」
「マキネッタ」は少量の濃いコーヒーが簡単に淹れられる抽出器具です。
別名を「モカポット」ともいい、イタリアでは「モッカ(MOKA)」という愛称で呼ばれ、7割の家庭で普及しています。
抽出も手入れも簡単で価格も手ごろなため、ヨーロッパを中心に世界で広く使われています。
ただしマキネッタで淹れたコーヒーは、バールで飲むエスプレッソと比べるとお湯の量が多くさらっとした口当たりで、クレマもほとんど出ません。
上記のように厳密に評価されたお店のエスプレッソとは全く違う味わいですが、雑味はなく香りやコクもしっかりしています。
エスプレッソマシンで入れる方法
家庭用エスプレッソマシンでエスプレッソを抽出する方法を簡単に説明します。
まずタンクに水を入れ、ホルダーに極細挽の粉を入れます。粉の量は1杯分なら7~10gが目安ですが、マシンによって異なるので説明書を見て好みの量を決めてください。
お店ではエスプレッソ用のグラインダーで1杯分ずつ極細挽にして、挽きたての新鮮なコーヒー粉を使いますが、家庭では粉で購入することが多いと思うので、できるだけ新鮮なコーヒーを使用します。(新鮮なコーヒーは香り高く、クレマも綺麗に出ます)
次に、ホルダー内に粉を行き渡らせるレベリングをします。ホルダー全体を手で叩いたり、軽く揺すったりして、内部まで振動させ、全体の密度を均一にします。
次に、コーヒー粉を押し固めるタンピングを行います。タンパーと呼ばれる器具を使って水平を確かめながら軽く体重をかけて、まっすぐ1回押し、そのまま上へ引き上げます。
ホルダーの縁に付いた粉をそっと払います。このとき、ホルダーを叩いてはたき落とそうとすると、せっかく固めた粉が偏ったりひび割れたりしてしまい、抽出のときにお湯がすき間に入り込み、味わいが変わってしまいます。(この現象をチャネリングと呼ぶ)
最後にホルダーをまっすぐ機械にセットして抽出ボタンを押し、好みの量の抽出量で止めます。抽出時間の目安は20~30秒、量の目安は30mlぐらいです。
マキネッタを使ったエスプレッソの入れ方
マキネッタを考案したビアレッティ社の「モカエキスプレス」という製品を使った淹れ方を紹介します。
コーヒー粉は細挽き、もしくはエスプレッソ用の極細挽きのコーヒーを使います。細挽きを使う場合は豆の状態で買って、家庭用のコーヒーミルで挽くことができるので新鮮な状態で楽しめるメリットがあります。
まず、マキネッタ下部のボイラー部分に水を入れておきます。水の量は内側のネジの高さまでです。
次にコーヒー粉をバスケットの縁まで入れ、全体を軽く叩き均一にならします。粉を押し固める必要はありません。
縁についた粉をそっと払い、ボイラーの上にはめ込み、上部のサーバー部分を回して取り付けます。
とろ火にかけて3分ぐらいでシューシューという音が聞こえ、コーヒーの抽出が始まります。
終わりがけには上がっていくコーヒー液が少なくなって、空気が混じるポコポコっという音に変わるので、すぐに火を止め、カップに注ぎます。
イタリア人は、お店では朝カプチーノをよく注文しますが、朝、自宅で淹れるときはミルクをたっぷり加えてカフェオレのようにして飲みます。
コーヒーにはミルクを必ず入れるという人にとっては、手軽に濃いコーヒーが入れられるマキネッタは使いだすと手放せなくなるかもしれません。
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イタリア流エスプレッソおすすめコーヒー豆3選
以下では、本場イタリアのエスプレッソ用コーヒー豆3選を紹介します。家庭でマシンや直火式エスプレッソメーカーを使ってエスプレッソを楽しみたい人におすすめです。
キンボ(KINBO)ナポリ(豆・粉)
1,478円 250g
キンボのナポレターノ(ナポリ)は、イタリア南部の都市「ナポリ」の昔ながらの製法を忠実に表現したコーヒー豆です。アラビカ種80%にロブスタ種を20%ブレンドしていて、力強い味わいとコクの深さ、上品さのバランスが絶妙なコーヒー豆です。エスプレッソ、カプチーノ、カフェジャポネーゼどれでも美味しく飲めるので、1つあると色んな飲み方を楽しめます。
ナポリは250gサイズでお試しできるので、まずは少量キンボのコーヒー豆を買ってみたい人におすすめ。ドリップで飲んでも美味しいですよ。
100gあたり | 591円 |
鮮度 | ★★★☆☆ |
焙煎度合い | 深煎り |
産地 | ブラジル、インド、他 |
品種 | アラビカ種80%・ロブスタ種20% |
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ラバッツァ クオリタロッサ Wパック(粉)
1,454円 250g×2袋
ラバッツァは、イタリアでコーヒー豆のシェアNo.1を誇る人気ブランドです。イタリアのスーパーでもラバッツァが一番多く陳列されている印象で、多くの家庭で飲まれています。(イタリアでは年間270億杯も飲まれています)
チョコレートのような味わいとヘーゼルナッツのような甘い香り、さらにベリー系の酸味がほどよく感じられて、バランスが良い味わいが特徴です。エスプレッソはもちろん、カフェジャポネーゼやアメリカーノなど、さっぱりと飲めるメニューとも相性が良いです。クレマもしっかり出るので、トロトロのエスプレッソを飲みたい人におすすめですし、ラテアートの練習にもおすすめのコーヒー豆です。
100gあたり | 291円 |
鮮度 | ★★☆☆☆ |
豆の産地 | ブラジル、ウガンダ、その他 |
焙煎度合い | 中深煎り |
豆の品種 | アラビカ種40% ロブスタ種60% |
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ムゼッティ ロッサ
984円 250g
ムゼッティのロッサは、「これぞエスプレッソ!」という王道の味わいをイメージして作られていて、イタリア南部で好まれる力強い味わいのエスプレッソを飲みたい人におすすめです。ロブスタ種が4割入っていることで力強いコクとビターチョコレートのような甘みがはっきりと感じられます。ワイルドな風味を味わいたい人におすすめのコーヒー豆です。
100gあたり | 377円 |
鮮度 | ★★★☆☆ |
豆の産地 | ブラジル、インド 他 |
焙煎度合い | 中深煎り(ミディアムロースト) |
豆の品種 | アラビカ60%、ロブスタ40% |
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イタリア流エスプレッソの飲み方を楽しもう
イタリア流のエスプレッソの飲み方について紹介してきました。エスプレッソがとても身近で飲みやすい飲み物であること、イタリア人の生活の一部となっていることを感じていただければ幸いです。
もしおいしいエスプレッソの店に行く機会があれば、ぜひクレマを観察したり、砂糖を入れてみたりして、イタリア人のように気軽なデザート感覚を味わってみてください。
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