上の図は「コーヒーベルト」と呼ばれるもの。このベルトの中にある地域は、コーヒー栽培に適しているといわれています。
タイもこのベルトの中に入っており、コーヒー栽培には絶好の場所となっています。ちなみに現在、タイはアジア圏内でインドネシア、ベトナムに次いで3番目にコーヒー豆の生産量が多い国です。
今回はタイ在住ライター&Coffee Loverの私が、タイのコーヒー豆の特徴を解説しながら、日本で購入できるタイ産のおすすめコーヒー豆を紹介します。
この記事を書いた人 あゆくま
タイ在住20年以上。2007年からタイ北部でカフェを10年間営み、タイのコーヒー文化の発展をリアルタイムで体感します。現在はタイと日本を往復しながらタイ語翻訳者、Web・取材ライターとして活動中。
タイ産コーヒーの特徴
まずは、タイで生産されるコーヒー豆の種類と、味や香りの特徴を解説します。
タイではロブスタ種、アラビカ種の2種類が生産されている
タイで栽培、生産されているコーヒー豆の品種はロブスタ種、アラビカ種の2種類です。
国内では年間で30,000トン*(ロブスタ種が21,000トン、アラビカ種が9,000トン)生産されています。
(*引用:タイ大使館農務担当官事務所データ)
ロブスタ種
比較的生育のしやすく病害虫にも強いロブスタ種は、タイ南部地方を中心に栽培されています。
海外にも輸出されていますが、おもにタイ国内で消費されており、その独特の強い風味や苦味により缶コーヒーやインスタントコーヒーなどの加工品によく使われています。
アラビカ種
タイのアラビカ種は、標高1250m以上ある山岳地帯が多く比較的気候の涼しい北部地方で栽培されています。
かつて米ととうもろこし栽培を中心としていた農家も、今は多くがアラビカ種のコーヒー豆栽培に切り替え、手摘みで丁寧なコーヒー栽培をしています。
アラビカ種は焙煎用の豆で出荷されることが多く、海外にも多く輸出されています。
タイ産コーヒーの味わいと香りの特徴
タイのコーヒー豆で生産が盛んなロブスタ種は、そのままで飲むには苦味が強い品種として知られています。
浅煎りだと麦のような味わいで、深煎りだと濃くなり過ぎて渋みが出やすい特徴があります。
ロブスタ種の飲み方はミルクや砂糖を入れるのが一般的ですが、販売店によってはアラビカ種にロブスタ種を少しブレンドすることで、アクセントとして使うこともあります。
一方、タイのアラビカ種は品の良い香りとスパイシーさが特徴です。
また、フルーティな香りもタイ産コーヒーの特徴です。アラビカ種は元々雑味が少なく繊細な味わいなので、各農家のその年の気候や精製の仕方などで味も微妙に変わってきます。
アラビカ種の場合は、その変化も楽しめると一層味わいが深まります。
タイでは豆の等級やグレードは定められていない
タイには、海外のようなコーヒー専門の等級やグレードは定められていません。
しかし近年は、タイ製品の品質認証を定める制度「GI(Geographical Indication)」(2004年タイ知的財産局告示)により、コーヒー豆も国単位での品質保証がされるようになってきました。
このシンボルがあることで、その地域に根ざした生産者として認められ、ほかの地域のコーヒー豆と区別ができるので、消費者の誤解を防ぐ役割にもなっています。
2020年の時点で70県75のGI製品が登録されており、コーヒー豆は全国で以下の7品目が登録されています。
商品名 | 特徴 | 生産地 | 品種 |
ドイトゥンコーヒー | 日本では一番有名なタイ産コーヒー豆 まろやかな味わいで爽やかな酸味がある |
北部チェンライ県 | アラビカ種 |
ドイチャンコーヒー | 香り、甘味、苦味がそれぞれ主張し過ぎず 絶妙なバランス。こちらも日本では有名 |
北部チェンライ県 | アラビカ種 |
テープサデット | 森林と茶畑と一緒に植えられているので、 独特の風味と香りがある |
北部チェンマイ県 | アラビカ種 |
カフェドンマファイ | 標高400-700メートルの雨の多い山地で栽培。 まろやかな味で豊かな香り。カフェインが1%しか含まれない |
東北部 ナコーンラーチャシーマー県 |
アラビカ種 |
ワンナムキアオ (グリンナリーコーヒーオゾン) |
大きな湖と山に囲まれた空気のおいしい地域で栽培される | 東北部 ナコーンラーチャシーマー県 |
アラビカ種 ロブスタ種 |
ムアンクラビコーヒー | 肥沃度の高い平野と丘の中腹の平野で栽培。 苦く、強めの味わいが独特 |
南部ムアンクラビ県 | ロブスタ種 |
カオタルコーヒー | 高地で栽培されるアラビカ種に比べて深みのある味わい。 味が濃いのでミルクを入れて飲むと良い |
南部チュンポーン県 | ロブスタ種 |
タイでは主に乾燥式(ナチュラルドライ)でコーヒー豆を精製
タイのコーヒー農家では主に乾燥式、ナチュラルドライと呼ばれる方法でコーヒー豆の精製を行います。
精製とは、コーヒーチェリーの種子であるコーヒー豆を取り出す工程のことです。精製には水を使った「水洗式」と水を使わない「乾燥式」がありますが、乾燥式はチェリーの風味が豆に移りやすく、フレーバーの強いコーヒー豆になりやすい特徴があります。
コーヒー豆の収穫時期は雨季を過ぎた11−12月頃。赤く色づいたコーヒーチェリーを一家総出で毎日丁寧に手摘みし、天日で乾燥、脱穀という流れが主流です。
ちなみに近年は山岳民族の若者たちが実家に戻り、家業を手伝う姿がよく見られます。
好奇心旺盛な若者世代が、あえて手間のかかるハニープロセス(半水洗式と呼ばれる精製方法。乾燥式と水洗式のメリットを活かすことができる)など、こだわりの手法に挑戦しています。
タイのおすすめコーヒー豆6選
では早速、実際に飲んでみたい!という方のために私のおすすめのタイ産コーヒー豆を6選を紹介します。
日本国内で入手できるコーヒー豆を選びました。
1. アカアマコーヒー タイ国内でも評価の高いコーヒー豆
2,100円 200g
まず最初に紹介するのは、山岳民族アカ族のコーヒー農園で完全無農薬、手摘みで収穫されたアカアマのコーヒー豆です。
2019年には日本の神楽坂に日本支店がオープン。農民としっかり連携を保ち、つねに発展し続ける事業に目が離せません。
紹介している「ポラマイ」というコーヒー豆は、オレンジピールのような爽やかな酸味が特徴の浅煎りコーヒーです。
豆の産地 | タイ北部チェンライ県 |
焙煎度合い | 浅煎り |
精製方法 | 乾燥式(ナチュラルドライ) |
豆の品種 | アラビカ種(ティピカ種5:カチモール種5) |
アカアマコーヒー Ponlamai (浅煎り) 200g
2. NACHA COFFEE(ナシャコーヒー) 原生林の自生コーヒー
1,404円 200g
次に紹介するのは、タイ北部の原生林で収穫されるNACHA COFFEE(ナシャコーヒー)の銘柄です。
タイ北部の標高1200メートルの高地、原生林に自生していたアラビカ種の中の「ティピカ種」と、フルーティな香りを保つカチモール種を5対5でブレンドしたコーヒー豆です。
苦味と酸味のバランスが良い中煎りに焙煎された本品は香りが強く、コクの深い味わいが楽しめます。2007年にアジアNo.1(SCAA認定)に選ばれたスペシャルティコーヒーです。
豆の産地 | タイ北部チェンマイ県 |
焙煎度合い | 中深煎り |
精製方法 | 乾燥式(ナチュラルドライ) |
豆の品種 | アラビカ種(ティピカ種5:カチモール種5) |
3. 海ノ向こうコーヒー タイのなまけ者コーヒー
972円 150g
次に紹介するのは、農薬や化学肥料を使わず、タイ北部で栽培されたコーヒー豆です。
昔ながらの伝統を守りながら、自給自足を中心とした暮らしを営む山岳民族カレン族が丁寧に育てたコーヒー豆が、「海ノ向こうコーヒー」というオンラインショップに届けられています。
スパイシーながらも黒糖のようにほっとする甘みが特徴です。苦味が少なくクリアな味わいなので、タイコーヒー初心者にもおすすめのコーヒー豆です。
豆の産地 | タイ北部チェンマイ県 |
焙煎度合い | 中煎り |
精製方法 | 水洗式(ウォッシュド) |
豆の品種 | アラビカ種 |
タイのなまけ者コーヒー(中煎り) 150g
4. ウミノネコーヒー焙煎所 タイ ドイパンコン ウォッシュド
1,850円 200g
次に紹介するのは、「タイ ドイパンコン ウォッシュド」という水洗式のコーヒー豆です。
こちらは、生産者の顔が見える素材へのこだわりを持つウミノネ焙煎所で、苦味が少ない「中煎り」に焙煎されています。
タイのロイヤル・プロジェクトの一環として植えられた”ChiangMai”(SL28、カトゥーラ、カチモールの3種を交配して作られたローカル品種)をハイローストで丁寧に焙煎し7日以内に届けてくれます。
クリーンで嫌味のない酸味が特徴です。爽やかな味わいが好きな人におすすめのコーヒー豆です。
豆の産地 | タイ北部チェンライ県 |
焙煎度合い | 中煎り |
精製方法 | 水洗式(ウォッシュド) |
豆の品種 | アラビカ種(SL28、カトゥーラ、カチモール種) |
5. ドイチャンコーヒー ウサミ農園のしっかり濃厚なコーヒー豆
1,260円 200g
標高1500メートルの高山ドイチャン村にあるウサミ農園で生産されたコーヒー豆です。
カカオのような甘さとほろ苦さに加え、程よく感じられるオレンジのような酸味が特徴的です。といっても、こちらは深煎りで酸味はかなり抑えられているので、どなたにも飲みやすいです。
苦味が強めのコーヒー豆なので、ミルクを加えてカフェオレにしても美味しく飲めます。酸味が苦手なに人にもおすすめのコーヒー豆です。
豆の産地 | タイ北部チェンライ県 |
焙煎度合い | 深煎り |
精製方法 | 水洗式(ウォッシュド)・乾燥式(ドライ) |
豆の品種 | アラビカ種(カチモール種) |
6. 銀河コーヒー ブルームーン
1,280円 150g
最後に紹介するのは、タイのチェンライの深く険しい山岳農園で育成される「ブルームーン」というコーヒー豆です。
本品は、甘味が強い「イエローチェリー」というコーヒーと完熟した「レッドチェリー」というコーヒーをブレンドし、クリアな味わいの中に黒糖のようなコクと甘味を感じられます。
苦味と酸味のバランスが良いシティロースト(中煎り)に焙煎されていて、ブラックで飲むのがおすすめです。クセがなく飲みやすい味わいなので、どんな方にもおすすめのコーヒー豆です。
豆の産地 | タイ北部チェンライ県 |
焙煎度合い | 中煎り |
精製方法 | 水洗式(ウォッシュド) |
豆の品種 | アラビカ種 |
タイのコーヒー栽培の歴史
それでは最後に、タイ産コーヒー豆の歴史について解説します。
思えば、私がタイに来たばかりの約20年前。タイの街には「カフェ」と名の付く店は全くありませんでした。
しかし今では都会郊外かかわらず、タイ国内どこでもおしゃれなカフェが立ち並んでいます。
なぜ、これ程までにタイにコーヒーが受け入れられたのか、探ってみましょう。
タイのコーヒー豆の起源
かつて植民地だったベトナムやインドネシアに比べ、タイのコーヒーの歴史は浅いといわれています。
タイに初めてコーヒー豆の苗木が持ち込まれたのは、今から約200年前のアユタヤ王朝時代。王宮に植えられる目的でインドネシアからコーヒーが運ばれたことが栽培の始まりでした。
その頃から度々オランダやイギリスの商人によってコーヒーの苗木が持ち込まれ、コーヒー栽培は南部を中心に次第に普及し始めます。
はじめは簡単に作れるロブスタ種の栽培が主でしたが、その歴史を大きく変えたのがラマ9世(プミポン前国王)でした。
タイのロイヤル・プロジェクト
山岳民族への救済
時は1960年代、タイの北部ラオスとミャンマーとの国境「ゴールデン・トライアングル」では、山岳民族によるケシ栽培が盛んに行われていました。
ケシを育てるには太陽の光を必要とします。そのため木は伐採され、また畑も焼かれていたので森林と土は極限まで弱っていました。
当時ケシの栽培は麻薬の原料になるので違法でしたが、地域住民は貧困のため密造せざるを得ませんでした。同時に麻薬による住民の健康被害も深刻になっていきました。
1969年、この問題を撲滅しようとラーマ9世が自ら現地を訪問。直後に国をあげての「ロイヤル・プロジェクト」が発足されます。
そこから本格的な山岳民族への救済活動と共に、コーヒー栽培の普及が始まったのでした。
コーヒー栽培の本格化
まず、ラマ9世は当時盛んだった焼畑農業をやめさせ、山岳民族が自立できるようアラビカ種の栽培を広めることからスタートをしました。
年月をかけて少しずつ森林を取り戻し、インフラを整備。はじめは半信半疑だった農民たちも、年月を追うごとにこのプロジェクトの成果を信じるようになっていきました。
インフラは整備されると住民の暮らしも徐々に豊かになっていきます。多くのアラビカ種のコーヒー豆が街に降りて行き、カフェは増加していきました。
タイのコーヒー文化と今
現在、タイ国内には8000店以上ものコーヒーショップが存在しています。**
タイ人のコーヒー飲量は一人当たり平均で約300杯/年間。日本人の平均が約400杯/年間なのでその消費量は今にも追いつく勢いです。
山岳民族だけでなく今やタイの国民全体を支えているコーヒー文化。そんなタイの歴史やストーリーに思いを馳せて飲む一杯もまた格別かも知れません。
(**引用:Food Intelligence Center Thailandデータ)
【豆知識】タイで「コーヒー」は禁句
日本語の「コーヒー」、実はこれはタイでは禁句ワードです。なぜなら、日本人の「コーヒー」という発音は、タイでいう性的な侮辱用語に聞こえてしまうからです。
タイ語のコーヒーの発音は、ガフェー(กาแฟ)。コーヒーショップ(カフェ)も同じように「ガフェー」と呼ぶので覚えやすいですね。
それから、この言葉も知っていると便利です。
- ワーンノーイ(หวานน้อย)=甘さ控えめ
- マイワーンルーイ(ไม่หวานเลย)=全く甘くしないで
特に屋台ではとても甘い飲み物が出てくることがあります。タイで食べ歩きの時などにぜひ使ってみてください!