ティピカはアラビカ種の1種で起源はエチオピアの森にさかのぼります。ほかのさまざまなアラビカ種の先祖であり、高品質と味わいが評価されています。
かつては世界のアラビカ種の大半を占めていましたが、収量が低く病害虫に弱いことから他種への置き換えが進んで激減し、現在では非常に希少になってしまいました。
今回はこの希少なティピカについて味の特徴や歴史などを徹底解説します。
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ティピカ種の特徴
ティピカとは
ティピカはアラビカ種のコーヒーの1種です。アラビカ種の中では文化的にも遺伝的にも極めて重要な位置づけをされています。
それは、ほかのアラビカ種の先祖であることとが起因しています。
コーヒーの木がアラビカ種と初めて名づけられたのは1753年ですが、アラビカ種「ティピカ」という名前がつけられたのは、かなり最近で1913年のことです。
さまざまなアラビカ種のコーヒーの原種となったので「標準的な」「典型的な」というスペイン語が語源となっています。
1940年代まで世界の栽培の中心でしたが、収量が低く病害虫に弱く植えてから収穫まで4年かかるなど、手間がかかることから、より病害虫に耐性のある他のアラビカ種やロブスタ種へ置き換えが進みました。
さらに1970年代から繰り返されたさび病の大流行により減少に加速がかかり、現在では純粋なティピカが非常に希少なものとなってしまいました。
ティピカは果物のような味わいが特徴
希少なティピカが重要視されるもう1つの理由は、品質の高さと素晴らしい味わいです。
口当たりのなめらかさは、後述するティピカ由来のほかのアラビカ種にも共通しています。
ミディアムボディで、クリーンな酸味はレモンなどの柑橘やピーチ、さくらんぼなど、いろいろな果物に例えられます。
控えめで柔らかい香りはナッツやトーストを連想させ、すっきりした甘い後味が特徴です。
冷めても雑味が出ず、むしろフレーバーが前面に出てきます。
ティピカから派生したコーヒーの品種
ブルボン:甘く力強い味わいが特徴
ブルボンはティピカと同様、なめらかでバランスの取れた優れた味わいを備えています。
メープルシロップやスパイスの入ったケーキを思わせる力強い味わいが特徴です。
香りはトロピカルフルーツやナッツ、なめし皮にも例えられ、すっきりとした後味です。
ブルボンはティピカと並ぶエチオピアの原種で、誕生はティピカの突然変異種とされています。
突然変異は人工的な品種改良の途中で偶然に起こることがほとんどですが、ブルボンは自然界で突然変異が生じた珍しい事例です。
ティピカと共にエチオピアの森からイエメンへ運ばれて、初めて作物として栽培されました。
ブルボンの名前の由来ですが、1708年にフランスがイエメンからマダガスカルの東に位置するブルボン島へ導入したことから名付けられました。
その後、約130年間ブルボン島から外へ持ち出されることはありませんでした。
ブルボンの種をアフリカや中南米に運んだのは、1841年にブルボン島へ来たフランスの宣教師達でした。
アフリカや中南米へ布教活動を行う際に、コーヒーの種も持ち込んだのです。
アフリカは主にタンザニアやケニアで栽培が始まり、タンザニアでは1930年から本格的な品種改良が行われました。
インドやエチオピアの原種と交雑が進み、現在はブルボンから派生したさまざまな亜種がアフリカ東部に見られます。
中南米へは1860年頃にブラジルへ導入された後、他地域へ急速的に広がりました。
ティピカから収量が20~30%高いブルボンへの置き換えが進んだのです。
ただブルボンも病虫害に強いとはいえず、2年に1回しか収穫できないという生産性の低さがあり、今日ではさらにカトゥーラ、カトゥアイ、ムンドノーボなどへの置き換えが進んでいます。
しかし、エルサルバドル、グァテマラ、ホンジュラス、ペルーでは現在も各地でブルボンが植えられています。
スマトラ:チョコレートや黒糖のような甘みが特徴
スマトラのティピカ種は酸味が少なく苦味成分が強いのが特徴です。
なめらかなフルボディでチョコレートや黒糖のような甘みがあります。
複雑な味わいで香りは大地や森によく例えられますが、これはスマトラ式と呼ばれる独特の精製方法も影響しています。
インドネシアのスマトラ島で栽培されているティピカは深い緑色の生豆が特徴で、マンデリンという銘柄で呼ばれることが多いです。
これは1908年にインドネシアで大流行した「さび病」で生き残った木をスマトラ島のマンデリン族という民族が主導で栽培したことから名づけられています。
しかし、インドネシア全体でみるとティピカの栽培の割合は1割まで激減しています。
スマトラ島のティピカは、1696年と1699年の2回に分けてオランダ人がティピカの種をインドからインドネシアに持ち込んだことが始まりです。
ジャワ島でスタートしたプランテーション農園はインドネシア全土に広がりスマトラ島でも栽培が始まりました。
マラゴジッペ:柑橘系の果実味が特徴
1870年にブラジルの「マラゴジッペ」という町でティピカの突然変異により生まれた種です。
世界に流通する豆の中で最も大粒で「エレファント・ビーンズ」とも呼ばれています。
土壌環境で風味が大きく左右される品種で、貧弱な土地では豆の味わいが損なわれますが、肥沃な土壌で育った豆は格別の風味です。
その味わいはオレンジなど柑橘系や洋ナシに例えられるデリケートな果実味が特徴で、キャラメルやチョコレートのような心地よい香ばしさが残ります。
ケント:マスカットのような香りが特徴
ケントはブルボンから分かれたインドの品種です。
1920年頃にインドのカルナタカ州にあるケント農園で発見されたことが名前の由来です。
以前はティピカといろいろな品種の交雑種だと言われていましたが、DNA鑑定の結果、ブルボンの子孫だと明らかにされました。
耐病性があり、生産性が高く、インドの他にケニアやタンザニアなどでも栽培されています。
スパイシーでシャープな酸味と干したマスカットやアプリコットを思わせる香りが特徴です。
後味はすっきりとした心地よい甘みが残ります。
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ティピカ種のコーヒー生産と栽培
ティピカの生産状況
ティピカの代表的な生産国は、ジャマイカ、ペルー、ドミニカ共和国です。
ジャマイカのティピカ種はブルーマウンテンという銘柄で有名です。
アラビカ種全般に言えることですが、さび病の流行が起きるたびにより病害に強い多品種への切り替えが進み、ティピカ種は生産量を減らしています。
2011年から2014年にかけては中南米全体でさび病がまん延したことで、これらの国も被害を受け、収量が激減し、ペルーではカティモールなどハイブリッドの品種へ、ドミニカ共和国ではハリケーンの影響もありカトゥーラ種への植え替えが加速しました。
しかし、一部の生産者は品質へのこだわりからティピカ種やブルボン種など原種に近い品種を植え続けています。
ティピカの栽培環境
ティピカの栽培は標高1000~1600mの冷涼な高地が適しています。
病害虫に弱いため、栽培環境を整え、木の健康を保って病気への抵抗力を保つことが必要です。
直射日光をさえぎるシェードツリーを一緒に植えることで、葉焼けを防ぎ、落ち葉は柔らかい腐葉土となって肥沃な土壌作りに貢献してくれます。
樹高が高く枝も長いので収穫作業がしにくく、植えるのに場所も取ります。
このようにティピカの栽培には手間がかかります。
ティピカの歴史
ティピカが最初に栽培されたのはイエメンで、15~16世紀にエチオピアの森に自生する野生のコーヒーが運ばれて始まったといわれています。
1600年代末にイエメンからインドへ種が運ばれ、インドでの栽培が始まりました。
上記のケントがブルボンの子孫であることから、このとき運ばれた種にはティピカだけでなくブルボンも含まれていたということが明らかになっています。
その後、オランダがインドからインドネシアのジャカルタへ種を運び、ジャワ島で栽培が始まった後、スマトラ島へも広がりました。
これが上記のスマトラの始まりです。
1706年、ジャワ島からオランダのアムステルダムにある植物園へ1本のティピカが運ばれ、1714年にはアムステルダム市長からフランスのルイ14世に若木が寄贈され、パリの王立植物園でも採種が始まりました。
その後、オランダとフランスにより中南米の植民地へ運ばれたことがカリブ諸国と南米大陸をコーヒーの大産地にならしめたきっかけです。
オランダが南米のスリナムと現在のフランス領ギアナへ運んだティピカはブラジル北部へ伝わり、1760年にはブラジル南部まで到達しました。
上記のマラゴジッペが発見されたのもこの時期です。
一方、フランスが1723年にパリからマルチニーク島へ運んだティピカは、1730年代にはジャマイカとドミニカ共和国へ伝わりました。
1800年代にはブラジルからペルーなど中南米の他の国々へ伝播しました。
1913年、それまでのアラビカ種からアラビカ種ティピカに改名が行われ、1940年代まで世界のコーヒー農園で主に植えられていたのはティピカでした。
しかし病害に弱く低収量のため、徐々にブルボンなど別のアラビカ種に置き換えられていったのです。
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