スマトラ島はインドネシアにおけるコーヒーの大産地です。9割はカネフォラ種ですが、冷涼な高地では多様なアラビカ種が栽培されています。
スマトラコーヒーを特徴づけるのは独特な力強い風味はスマトラ島の土壌と独自の精製方法によるものです。
今回はこのスマトラコーヒーについて味や香りの特徴を徹底解説していきます。
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スマトラコーヒーとは
スマトラコーヒーとは、スマトラ島で栽培されるアラビカ種のコーヒーの総称です。
スマトラ島全体ではカネフォラ(ロブスタ)種が9割を占めますが、近年フェアトレードや大手コーヒーチェーンの契約栽培などを通して栽培されるアラビカ種が増えています。
アラビカ種の栽培がさかんなのはスマトラ島北部のアチェ州、北スマトラ州のトバ湖周辺や、ガヨ高地です。
蒸し暑いスマトラ島でも高地の比較的冷涼な気候はアラビカ種の栽培に向いているためです。有名な産地はアンコラ、リントン、ガヨなどです。
アンコラはマンデリンコーヒーの由来となったバタック・マンダイリン族が住んでいた地域です。
スマトラ島のアラビカ種がさび病により壊滅的被害を受けた際にも、この地で彼らが原種に近いティピカの栽培を続けたことから名付けられました。
スマトラコーヒー全体ではカティモールなど耐病性のあるさまざまな品種が導入されています。
スマトラ島でコーヒー栽培が始まったのは1700年頃です。オランダがインドから種を持ち込んでプランテーション農園による栽培を始めました。
現在は小規模な農家が生産者の9割を占めていますが、これはその後の植民地支配と独立戦争の歴史によるものです。
スマトラコーヒーの特徴
重厚なコクと強い苦み、優しい甘みが特徴
スマトラ島では耐病性のあるカティモールやティモール・ハイブリッドなどの品種を始め、古くからの品種や交雑種など多様なアラビカ種のコーヒーが栽培されています。
この中で共通する味は重厚なコクと強い苦み、優しい甘みが特徴的で、酸味はあまり感じられません。
ただし浅煎りにするとオレンジのような強い酸味が出てきます。
香りはチョコレート、ナッツ、クローブなどのスパイスに例えられます。
スマトラコーヒーをもっとも特徴づけるのは「アーシー(earthy)」な香りで、湿った森の土などに例えられます。革の匂いに例える人もいます。
これは豆の品種というよりスマトラの土壌と後述するスマトラ式という精製方法から生まれる独特の香りです。
スマトラコーヒーに適した焙煎度合いは「深煎り」
コーヒーの焙煎度合いは大きく分けると「浅煎り」「中煎り」「深煎り」の3段階です。
さらに細分化した“8段階”の焙煎度合いは浅い方から
- ライトロースト、シナモンロースト、ミディアムロースト、...浅煎り
- ハイロースト、シティロースト...中煎り
- フルシティロースト、フレンチロースト、イタリアンロースト...深煎り
となります。
スマトラコーヒーは栽培された土壌やスマトラ式の精製方法から、浅煎りにすると強い酸味が残ります。
そのため好みにもよりますが、深煎りで焙煎されることが多いのです。
8段階ではシティローストかフルシティローストが適しています。
しっかり焙煎することで重厚なコクと苦みが生まれ、独特の「アーシー」さが引き立つのです。
カフェオレ、水出しアイスコーヒーにもおすすめ
苦みが強いスマトラコーヒーはミルクと相性がいいのでカフェオレに向いています。
アイスコーヒーは一般的に酸味が強く出る傾向があるので、酸味が少なく苦みの強いコーヒーはアイスコーヒー向きです。
しかしスマトラコーヒーは独特の土の香りが気になる場合もあります。そんな場合は水出しコーヒーを試してみるのもよいでしょう。
水出しコーヒーはゆっくり抽出するため豆の特徴が柔らかく出ます。家庭でもコーヒーサーバーや麦茶用の紙パックを使って簡単に作れます。
作り方は以下の通りです。
<コーヒーサーバを使った作り方>
サーバーにコーヒー粉50gを入れ、常温の水を400~500ml注ぎよく混ぜた後、冷蔵庫で7~8時間冷やします。
ペーパーフィルターでこして完成です。
<麦茶用の紙パックを使った作り方>
麦茶用の紙パックにコーヒー粉を100g入れたら、ピッチャーなどに紙パックを入れて水を1リットル注ぎます。
冷蔵庫で7~8時間冷やした後、紙パックを取り出して完成です。
スマトラに味が似ているコーヒー豆はトラジャ、ケニア、パプワニューギニア
スマトラのように苦みと甘みが強く重厚なコクが特徴のコーヒーには、同じインドネシアで栽培されるトラジャや、ケニアやパプアニューギニアで栽培されるコーヒーがあります。
トラジャはスラウェシ島で栽培されているコーヒーで、上品な甘みと力強いコクがスマトラと共通しています。奥行きのある香りと味わいはグルメコーヒーと称されています。
ケニアで栽培されるコーヒーもシティロースト以上に焙煎されると酸味が抑えられ、力強い苦味やコクが加わります。同時に優しい甘みが引き出されて、芳香が生まれます。
パプアニューギニアのコーヒーは黒砂糖のような甘みとどっしりしたコクがあり、チョコレートやハーブに例えられる香りもスマトラとよく似ています。
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スマトラコーヒーの等級・グレード
世界のコーヒーの等級は豆のサイズ、欠点豆の数、味、生産地の標高の4つの評価基準でつけられます。
世界共通の評価基準というものはなく、上記の4基準から各国が1つ以上を選び、独自の等級をつけて輸出しています。
インドネシアがアラビカ種に採用している基準は欠点豆の数で、スマトラコーヒーにもこの基準に沿って等級がつけられています。
等級は300gの中に含まれている数によって以下の通りに分類されます。
G1(グレード1) 欠点豆数0~11
G2(グレード2) 欠点豆数12~25
G3(グレード3) 欠点豆数26~44
G4(グレード4) 欠点豆数45~80
G5(グレード5) 欠点豆数81~150
なお、特に風味が優れているものは「SP(SPECIAL)G1」と表記されます。
スマトラコーヒーの基本情報
精製方法は「スマトラ式」
スマトラコーヒーには「スマトラ式」と呼ばれる精製方法が採用されています。
スマトラ島の湿潤な気候で独自に生まれた方法です。
各農家が収穫後、皮むきしたコーヒー豆を24時間発酵させ、発酵で柔らかくなったミューシレージを除去してきれいに洗い流します。
ここまでは世界で主流のウォッシュド式と同じ流れですが、スマトラ式の特徴は乾燥を2回に分ける点にあります。
まず天日干しで約50%まで予備乾燥をした後、業者に持ち込まれ水分30~35%の半乾燥の状態まで乾燥させ、パーチメントと呼ばれるコーヒー豆の殻を脱殻します。
その後、出荷できる水分量になるまでもう一度乾燥させるのです。
1回目の乾燥が2~3日で済み、2回目の乾燥も殻をむいた後なので乾燥期間を短縮できるというメリットがあり、雨の多いスマトラ島に適した方法です。
しかし脱殻のときに割れやすく菌が入りやすいというデメリットもあります。
ほかの精製方法は脱殻前に最終段階まで乾燥させるので、豆が縮んで殻との間にすき間ができますが、スマトラ式では半乾燥の状態なので、すき間が十分になくはがれにくいのと、豆自体も柔らかいためです。
1100~1600mの高地で栽培される
スマトラ島は高温多雨の熱帯雨林気候ですが、コーヒー産地は1100~1600mの高地にあたり、冷涼で昼夜の寒暖差も大きいためアラビカ種の栽培が可能です。
年間を通して雨が多く、乾季の間も定期的なスコールが降るため、天水で栽培できる利点があります。
土壌は黒い火山灰土でアラビカ種の栽培に理想的な弱酸性です。
スマトラ島でコーヒー栽培を担う中心は小規模農家で、バナナやオレンジなどの果樹やマメ科の樹木と混植していることが多いです。
これらの樹木はシェードツリーとして直射日光を遮るほか、風や豪雨からもコーヒーの木を守り、マメ科の樹木は土壌中の窒素固定も行ってくれます。
また燃料材や家畜の飼料といった農家の生活に密着した利点もあります。
収穫期は地域によって若干異なりますが、雨期にあたる9~5月までで、9~12月ごろと3~5月ごろの2回ピークがあり、収穫は手作業で行われます。
この収穫期が雨期と重なることから、乾燥期間を短縮するためにスマトラ式精製方法が生まれました。
スマトラコーヒーの栽培が始まったのは1699年
インドネシアでコーヒー栽培が始まったのは1699年で、オランダがインドから植民地であるインドネシアのジャワ島に種を持ち込んだのが始まりです。
その後ジャワ島からスマトラ島西部の港に到着して、スマトラ島でも栽培が始まり、1711年に初めてスマトラ産のコーヒーがヨーロッパに輸出されました。
栽培地は広がり続け、1725~1780年の間、インドネシア産のコーヒーは世界の市場を支配するようになります。
1800年頃、スマトラ島における生産は西部のミナンカバウ高地が中心でした。先住民ミナンカバウ族は商才にたけており、高地から西へ流れる川伝いに港町まで生産したコーヒーを運び販売していました。
一方オランダはキリスト教の布教とともに支配を強め、ミナンカバウ族など先住民の激しい抵抗に遭い、懐柔策として、コーヒーの栽培に課税はするが販売は自由にすると宣言しました。
ところが首長らが降伏するとオランダは宣言を翻し、コーヒーの強制栽培制度を敷いたのです。
生産した豆を1ヶ所に集めさせ安く買い上げる制度で、1840年代に北スマトラ州とミナンカバウ高地で始まりました。
しかし重労働を伴う政府の農園には人が集まりにくく、結局1850年ごろからは農民が居住地の近くなどで好きな方法で植えられる「自主栽培」も認めるようになりました。
オランダは北部へ進出を図り、1870年代にはトバ地区にいた先住民バタック族と、現在のアチェ州に位置するアチェ王国に戦争を仕掛けます。
さび病による壊滅的被害がでたのもこの時期で、1876年のことですが、バタック族の中のマンダイリン・バタック族は、生き残った木を栽培し続け、後のマンデリンコーヒーの由来となります。
オランダはバタック族の王を追放した後、アチェ王国も制圧し、1912年にはスマトラ島全域がオランダの植民地となりました。
1915年にはアチェ州のほかガヨ高原などでも開拓が始まり、トバ地区では先住民による小規模な農園が広がりました。この頃には本土からの批判により強制栽培制度は廃止されていました。
第二次世界大戦中、1942年に日本軍がスマトラ島を占領下に置くと、コーヒーの輸出は止まり大規模農園のオーナーは国外へ逃亡、日本の敗戦後は再び占領しようとするオランダとの間でインドネシア独立戦争が起こりました。
1950年にインドネシアは独立を果たしましたが、戦争中にコーヒー畑は荒廃し米など食糧生産の場に変わっていたため、同年の収穫量は戦前のピーク時から8分の1まで落ち込んでいました。
独立後、新たにコーヒー生産の担い手となったのは地元の農民たちです。インドネシア政府も耐病性のある新品種の導入を促進し、苗木を配付しました。
今日、スマトラコーヒー生産の担い手のほとんどは1ha未満の小規模な農家ですが、これは植民地時代の「自主栽培」と、消滅した大規模農園の後で独立後にスタートした本当の自主栽培の歴史を物語っていると言えるでしょう。
スマトラのおすすめコーヒー豆3選
1.inuit coffee roaster マンデリン
価格 | 1800円 |
内容量 | 200g |
100gあたり | 900円 |
1杯あたり | 90円 |
豆の産地 | リントン・ニ・フタ、パラギンナン地区の約40の指定小農家 |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | ティピカ |
焙煎度合い | フレンチロースト(深煎り) |
神奈川県葉山市にあるスペシャルティーコーヒー専門店、inuit coffee roaster(イヌイットコーヒーロースター)のマンデリン。
木や草を思わせるアーシーな香りが印象的。一口飲むと重量感のあるコクと甘み、ほのかな酸味のバランスよく、深みのある味わいが感じられます。
フレンチローストのマンデリンというとかなり苦いイメージがありますが、同店のマンデリンは苦味がすっきりとしていて後にあまり残らず、上品な味わいが特徴です。
ミルクに負けない力強いコクがあるので、カフェオレにもおすすめです。
2.土居珈琲 マンデリンG1
価格 | 2052円 |
内容量 | 200g |
100gあたり | 1026円 |
1杯あたり | 103円 |
豆の産地 | インドネシア・アチェ地区 |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | 記載なし |
焙煎度合い | 中深煎り |
大阪の老舗ロースター「土居珈琲」のマンデリンG1(スマトラコーヒーの中でも最高のグレード)。
実際に飲むと、チェリーのような酸味とスパイス感、ハーブのような風味が感じられます。スマトラコーヒーの特徴的な苦味は少なく、さわやかな味わい。
フルーティーなスマトラコーヒーを飲みたい人におすすめです。
このマンデリンについて、詳しくは土居珈琲の公式サイトをご覧ください。
3.SPARK COFFEE ROASTERS インドネシア スマトラ リントン
価格 | 880円 |
内容量 | 100g |
1杯あたり | 88円 |
豆の産地 | トバ湖南部リントン地区 |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | アラビカ種の土着品種 |
焙煎度合い | 浅煎り |
2019年に開催された焙煎大会のファイナリストが手がけるマンデリンのシングルオリジン。
チェリーやぶどうを思わせるフルーティーな甘酸っぱさが特徴的で、爽やかなアフターテイストが感じられます。
軽やかな味わいなので、ブラックで飲むのにおすすめのスマトラコーヒーです。
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