地球温暖化がこのまま進めば、コーヒーの生産量は減少し、美味しいコーヒーが当たり前のように飲めない日々がやってくる。これは「コーヒー2050年問題」と呼ばれており、今まさに、この瞬間も進行しています。
この記事では、コーヒー2050年問題とは何なのか、それに対してどのような取り組みが行われているのかについて、具体的に解説していきます。
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コーヒーの2050年問題とは
温暖化により栽培適地が50%に減少
温暖化による気候変動は世界的な問題ですが、コーヒーの栽培地にも大きな影響を与えています。
コーヒー栽培に適した熱帯付近の熱帯地帯は「コーヒーベルト」と呼ばれていますが、気候変動が続くと、コーヒーベルトで生産量の7〜8割を占めるアラビカ種の栽培適地は、2050年までに現在の半分(50%)に減少する可能性があります。
また、世界第1位の生産量を誇るブラジルでは、60%もの栽培適地が減少してしまうとも言われています。
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2050年を間近に消費量は増加している
さらに、コーヒーの需要は世界的にも高まっています。
日本においては、コーヒーはもはや生活に欠かせない飲み物となりましたが、中国やインドなど近年急速に発展した国々でもコーヒー消費量が増加に転じています。
このような需要の高まりと、コーヒーの栽培適地の減少という問題が重なることで、需要と共有のバランスが崩れます。
世界規模の深刻なコーヒー不足を招く前に、目を逸らさずこの問題と向き合っていくことが非常に重要です。
イタリアのコーヒーブランド「illy(イリー)」のCEOは、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにて「2050年までにコーヒーの需要は2〜3倍になる」と予測しています。
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2050年問題で起こること
コーヒーの収穫量と品質の低下
▲干ばつによって収穫量が大きく減少しているブラジルのコーヒー農園。2018年には4,550万袋相当のアラビカ種が収穫されましたが、2019年は27.8%減の3,430万袋に減少。
次に、2050年問題が何を引き起こすのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
まず、温暖化がコーヒー栽培に及ぼす影響は、主に以下の3つが挙げられます。
- 降雨量と寒暖差の減少
- 高品質なアラビカ種の収穫量の減少
- 湿度の上昇とさび病の蔓延
極端な気温の上昇は、熱波や集中豪雨などの異常気象を引き起こすだけでなく、その土地で栽培しやすい農作物を変えてしまう環境変化につながります。
コーヒーベルト地帯では降雨量が減少し、アラビカ種の栽培に必要な雨季と乾季の境目が少なくなると考えられています。
アラビカ種は高温多湿の環境では育ちにくい傾向があります。標高が高く、寒暖差が大きい土地ほど、風味豊かで高品質なコーヒー豆が収穫できますが、温暖化によって寒暖差が小さくなると、さらに標高の高い栽培地を開拓せざるを得ません。森林伐採は、さらなる温暖化を招く悪循環を生みます。
さらに、地表温度の上昇は、海面から発生する水蒸気の量を増加させます。降雨量の減少と湿度の上昇によって、アラビカ種の大敵「さび病」が蔓延しやすくなってしまうのです。
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コーヒー生産者が減少
アラビカ種の栽培が適さなくなった土地でコーヒー栽培を続けるためには、高温多湿の条件下でも栽培しやすい「ロブスタ種」に切り替えなければなりませんが、ロブスタ種はアラビカ種より風味に劣り、安価で取引される傾向にあります。
つまり、アラビカ種の栽培に適した土地が減るということは、コーヒーで生計を立てている農家が貧困に陥る可能性が高くなることが予想されます。
さび病対策への労力に加え、農薬などの費用も嵩むことから、結果としてコーヒー生産を辞める農家が増えることが懸念されます。
コーヒー農家が減少することは、地球規模でのコーヒー供給不足につながります。
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コーヒーの価格が上昇
市場価格は「需要と供給」のバランスで決まるため、コーヒーの供給が減り続けると、いずれ需要が供給を上回り、必然的にコーヒーの価格は上がります。
2050年問題の対策
このように、コーヒーの未来のためには一刻も早い対策が必要です。
温暖化対策は、大きく分けて「緩和策」と「適応策」の2つがあります。
- 緩和策:二酸化炭素排出量の削減や、資源の有効活用により温室効果ガスの排出を抑制する
- 適応策:厳しく緩和への努力をしても、長期的に温暖化を避けることは困難であるため、温暖化によって深刻化する問題への適応策を検討する
コーヒーの2050年問題は、すでに世界レベル、企業レベルでの「適応策」が進められています。
品種の開発
持続可能なコーヒー栽培のための非営利研究機関である「ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)」は、病気に強く、気候変動に対応できる品種を開発するための研究を行っています。
世界26ヵ国で実施されている「国際品種栽培試験(IMLVT)」と呼ばれる計画を進めており、現在ではさまざまな企業や団体が研究に参加しています。
KEY COFFEEの取り組み
KEY COFFEE公式より引用
2016年4月、KEY COFFEEは日本初のWCRゴールドメンバーとして、コーヒーの未来を守るIMLVT活動への協力を開始しました。
KEY COFFEEが運営するインドネシアの農園をWCRの研究に提供するなど、全面的な協力を発表しています。
参考:コーヒーの明日に向けて|FOR SUSTAINABLE COFFEE PRODUCTION|キーコーヒー株式会社
スターバックスの取り組み
気候変動に強い高品質コーヒー品種を開発
▲中米コスタリカにあるスターバックスの自社農園
2013年、スターバックスは中米コスタリカに自社農園「ハシエンダ・アルサシア農園」を入手しました。
問題への取り組みの一環として、専門知識を持つスターバックスの農学者が、気候変動に強い高品質コーヒー品種の開発や収益性を高める栽培方法などを研究しています。
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品種改良以外の取り組み
さらに、2030年までにコーヒー豆(生豆)のカーボンニュートラルを実現し、生産に使用する水の量を50%削減することも発表しました。
カーボンニュートラルとは、人為的に「排出」される温室効果ガスの量から、植林や森林管理によって「吸収」される温室効果ガスの量を差し引き、その合計を実質的にゼロにする取り組みです。
店舗における取り組みとして、従来型の店舗に比べCO2の排出量を約30%、水の使用量を約20%削減できる環境配慮型店舗「グリーナーストア」を2025年までに全世界で10,000店舗展開すると掲げています。
参考:Starbucks announces coffee-specific environmental goals
▲グリーナーストア日本1号店「皇居外苑 和田倉噴水公園店」
2021年には「スターバックスコーヒー皇居外苑 和田倉噴水公園店」が日本1号店としてオープンし、日本でも注目を集めました。
サスティナブルなコーヒー生産の確立
コーヒーにおけるサステナブル(持続可能)な未来に向けたキーコンセプトのひとつに「フェアトレード」が挙げられます。
フェアトレードとは、直訳すると「公平で公正な貿易取引」。フェアトレードとして認証されるためには、途上国の小規模生産者や労働者の持続可能な開発を促進するための厳密な「経済」「社会」「環境」基準を満たす必要があります。
フェアトレードを通じてコーヒー生産者の経済的な側面を守る活動は、コーヒー生産者の減少を防ぐことにつながるのです。
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2050年問題の対策として個人でできること
そして、温暖化対策としてわたしたちが個人でできることは、二酸化炭素の排出を減らし資源を有効活用する「緩和策」の方です。
ゴミを減らす
環境にやさしい循環型社会を構築するため、資源を無駄なく繰り返し利用する「3R(スリーアール)」の重要性が高まっています。
リデュース(Reduce/減らす)、リユース(Reuse/繰り返し使う)、リサイクル(Recycle/再資源化する)を意識して生活することは、温暖化だけでなく、資源の枯渇を防ぐ観点からも重要です。
近年では、リフューズ(Refuse/断る)が加えられた「4R」が主流になってきており、ゴミになるものは積極的に断り、ゴミを出さない意識も大切です。
節電する
冷暖房の設定温度に気をつけるなど、日常生活での電力消費量に配慮するのも効果的です。
小さな心がけで実践できる温暖化対策「節電」は、エコ活動の基本と言えます。太陽光発電などの自然エネルギーを利用するのも良いアイデアです。
石油資源を消費しない
プラスチックなどの石油由来の資源は、環境負荷が大きいと言われています。
買い物ではマイバッグを使う、カフェではマイタンブラーやマイカップを使うなどを心がけ、使い捨てプラスチックの削減に努めることが大切です。
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緑化活動に協力する
植物の光合成によってCO2を吸収し、酸素に変える緑化活動も温暖化対策に有効です。
それだけでなく、植物の葉から水分が蒸発し外気温を下げてくれるため節電にもつながります。自治体やボランティア団体の緑化活動に協力したり、家庭で緑を育てたりして、少しでも自然を増やすことも大切です。
わたしたちの「手軽さ、便利さ」が地球温暖化の大敵になっていると頭で理解していても、なかなか手放すのが難しいのが実情だと思います。
この記事をきっかけに、今と同じようにコーヒーを楽しめる未来に向けて、何かひとつでも行動を起こしていただければ幸いです。
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