マンデリンリントンはインドネシア北スマトラ州のトバ湖という湖の南側にある「リントン」という産地で生産されたコーヒーの銘柄です。
マンデリンの苦味・甘み・深いコクを備えており、スパイス感が際立っている一方で後味はすっきりした飲みやすい味わいです。
他の産地でのマンデリンの生産が第二次大戦とその後の混乱により一時途絶えた後も、リントンでは零細農家が生産を続けており、マンデリン復活の地として有名になりました。
今回はマンデリンリントンについて解説し、通販で買えるマンデリンリントンを使ったコーヒー豆を3つ紹介します。
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リントンとは「コーヒー産地の名称」のこと
リントンはインドネシアのスマトラ島にあるコーヒー産地の名称です。
スマトラ島には10の州がありますが、マンデリンの銘柄で有名な産地はアチェ州と北スマトラ州のトバ湖周辺の高地で、リントンは後者に位置します。
コーヒーの袋などには「リントン」とのみ書かれていますが実際の地名は「北スマトラ州フンムバン・ハスンドゥタン県」にある「リントンニフタ郡」「ドロクサングル郡」「パランギナン郡」などです。
「マンデリン」という銘柄の始まりは、同じ北スマトラ州のマンダイリンやアンコラで生産されたコーヒーが1920~30年ごろ米国で高く評価されたことで、それを受けてリントンでも栽培が始まりました。
第二次大戦や戦後の混乱の中、マンダイリンなどの政府農園が衰退する一方で、リントンでは零細農家がティピカ由来の古い木を守りながら細々と栽培を続けており、その後のマンデリンの復活の地として有名になりました。
マンデリンリントンの特徴
黒砂糖のような甘みと「土のような香り」が特徴
マンデリンリントンは、苦味と黒砂糖やチョコレートに例えられる甘みが中心の味わいです。
複雑でどっしりとしたコクがあるのに雑味はなく後味がすっきりしているのが特徴です。
クローブなどのハーブを思わせる香味や「アーシー」と表現される土のような香りが際立っています。
深い苦味が好きな人やコーヒーを飲んでリラックスしたい人におすすめのコーヒーです。
果物のような香味は感じられますが、深煎りで焙煎されることが多いので酸味はほとんど感じられません。
コーヒーの酸味が苦手な人にもマンデリンリントンは飲みやすいです。
他のマンデリンとリントンの違いはある?
「マンデリン」の銘柄で販売されるコーヒー豆はスマトラ島の北スマトラ州とアチェ州で生産されています。
アチェ州では「アテン」や「ガヨ」など新しい品種が中心で、北スマトラ島州ではカティモールやティモールハイブリッドなど栽培しやすいが味の面では劣る「ハイブリッド種」などが混在しています。
これらを「マンデリン」と称して販売していることもあります。
しかし北スマトラ州の中でもリントンが位置するトバ湖南部には19世紀にスマトラ島に持ち込まれたティピカが風土に順応した「クラシック・スマトラ」と呼ばれる品種が残っています。
「ガロンガン」などと地元で呼ばれてきた品種で、ティピカの優れた風味を受け継いでいます。
マンデリンリントンにはこれらの「クラシック・スマトラ」が使われており、戦前の米国で世界一と評された本来の「マンデリン」に近い味わいと言われています。
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マンデリンリントンは酸味が少ない「深煎り」が一般的
マンデリンリントンを含むすべてのマンデリンは深煎りが一般的です。
深煎りにすることで強いボディと酸味をある程度抑え、甘い香りと複雑な味わいが引き出されるからです。
中煎りにするとコクと苦みは弱まり、トロピカルフルーツのような酸味が強調され、香りは甘く華やかになり、深煎りとは大きく異なる印象です。
浅煎りにすると酸味がさらに増し「フルーツジュース」のような風味とスパイシーな香りが強調されます。
ただし、おいしいと感じるかどうかは好みにより分かれるかもしれません。
アイスコーヒー、カフェオレにもおすすめ
深煎りのマンデリンリントンは、アイスコーヒーにしても非常においしいです。
冷たくしても香り豊かで、甘さの中に独特のハーブの香りも感じられます。
口あたりはすっきりというよりも、まろやかでコクが感じられます。
苦みと重厚なボディがあり、ミルクを入れてもコーヒーの風味がしっかりと味わえるため、カフェオレにも最適です。
マンデリンリントンに味が似ているコーヒー豆は?
マンデリンリントンに味わいの似たコーヒー豆は「マンデリンアチェ」「ガヨ」や「トラジャ」などがあります。
「マンデリンアチェ」はアチェ州で生産されるマンデリンで苦味と重厚さがさらに強く感じられます。
「ガヨ」はアチェ州のガヨ高地を産地とする銘柄です。
深いコク・甘み・スパイシーさが感じられる点でマンデリンリントンに似ています。
「トラジャ」は同じインドネシアでもスラウェシ島で栽培されている銘柄です。
マンデリンリントンと同様に力強さが感じられますが、よりクリーミーな口あたりで甘みや酸味とのバランスがよいコーヒーです。
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5種類のマンデリンリントンの特徴
1.リントンニフタ
リントンニフタとは上記の通り郡の名称ですが、産地として注目されたため「マンデリンリントンニフタ」と地名がそのまま銘柄のようになっています。
「マンデリンリントンニフタ」として販売されている豆には、リントンニフタ郡と隣のパランギナン郡の農家から出荷された豆も入っています。
この地域を特徴づける品種として、19世紀にスマトラ島に持ち込まれたティピカの子孫「ガロンガン」が扱われていることが多いです。
2.リントンミトラ
「マンデリンリントン ミトラ」は、リントンニフタ郡とその隣のパランギナン郡にある一部の農家で生産されたティピカ100%のブランドです。
「ミトラ」とはインドネシア語で「相棒」「パートナー」という意味です。
マンデリンのアーシーさやスパイス感、マンゴーのような香味を備えつつ、ティピカのまろやかさも生きています。
味わいを生む特徴は精製方法にあります。
通常スマトラ式の精製方法では、各農家で皮むきと1回目の乾燥を行ってから加工業者に運ばれますが、マンデリンリントンミトラは皮むきした後すぐ精製加工所を持つ指定輸出業者まで運ばれます。
整った設備で天日乾燥と精製をスピーディーに行うことで高品質な豆の味わいを引き出せるのです。
3.リントンラスナ
「ラスナ:Lasuna」はインドで開発されたリベリカ種とアラビカ種の交配種の名前であり、インドネシアのジャワ島にある試験農場に持ち込まれたSラインと呼ばれる品種群の1つであるとされています。
一方で「マンデリンリントン ラスナ」は、リントンニフタ郡の数十の小農家が生産した豆で作られたブランド名で、ティピカ由来の在来種が使われています。
「ラスナ」の意味はマンダイリン・バタック語で「昔からある物」「原種」であり、かつて世界一と称されたマンデリンの本来の味わいを取り戻したいという思いが込められています。
4.リントンナチュラル
「マンデリンリントンナチュラル」はリントンニフタ郡からほど近いタパヌリ県シボロンボロン郡に農場を持つランバン・コピ・マンディリ社という会社が販売する銘柄です。
品種はアテン・ハイブリッドティモール・ジェンバーなどでナチュラル式の精製方法を取っています。
栽培にはシェードツリーを使うなどしてコーヒーの木が成長する環境を整えています。
5.リントンビートル
「マンデリンリントン ビートル」は、あるコーヒー豆のコレクターが立ち上げたマンデリンのブランドです。
リントンニフタでよく見られるヒメカブトというカブトムシがモチーフになっています。
このコレクターはリントンニフタから西に30分ほどの場所にあるドロクサングル郡の小規模生産者から直接パーチメントを買い付けています。
自分の精製所で脱殻・乾燥を行った後、メダンにあるドライミルで最終工程を経て輸出しています。
【番外】リントンアチェ
マンデリンの栽培地域は北スマトラ州よりさらに北に位置するアチェ州にもあります。
北スマトラ州にあるリントンニフタ郡の豆は「マンデリンリントン」と呼ばれますが、アチェ州から出荷されたマンデリンは同様に「マンデリンアチェ」と呼ばれます。
したがって「マンデリンリントンアチェ」というブランドはなく、「マンデリンリントン」と「マンデリンアチェ」を混同してこのように呼ばれることがあります。
マンデリンリントンの基本情報
等級・グレードは欠点豆の数で決まる
コーヒー豆の等級に世界共通の基準はなく、出荷国が独自の基準を定めています。
マンデリンリントンは出荷国であるインドネシアの基準に従って等級が決まります。
インドネシアのコーヒー豆の等級は300g中の欠点豆の数で決まり、少ないものから順に「G1(グレード1)」~「G5(グレード5)」と表されます。
例えば「マンデリンリントンG1」などのように表記されます。
欠点豆の数と等級の関係は次のとおりです。
・G2 12~25個
・G3 26~44個
・G4 45~80個
・G5 81~150個
G1の中でも特に風味が優れた豆は区別されて「SP(スペシャル)G1」と表記されます。
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精製方法はスマトラ式
マンデリンの主な精製方法はスマトラ式です。
スマトラ式とは収穫して皮むきした豆を各農家が半乾燥させた後精製所に持ち込み、精製所で脱殻したあともう一度乾燥させる方法です。
ウォッシュド式では豆の周りのヌルヌルしたミューシレージを洗い流してから乾燥させるのに対し、スマトラ式ではミューシレージをつけたまま半乾燥させます。
この工程がマンデリンの特徴であるコーヒーの味わいに複雑さや大地の香りを与えています。
しかし一部にはウォッシュド式など他の精製方法を行い差別化を図っている産地も見られます。
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品種はティピカの亜種「ガロンガン」や「オナンガジャン」
マンデリンリントンの銘柄で販売されている豆で象徴的な品種は、「クラシック・スマトラ」と呼ばれるティピカの亜種「ガロンガン」や「オナンガジャン」です。
「オナンガジャン」はリベリカ種とアラビカ種の交配種で、発見された村の名前が付けられました。
また、インドネシアで広く栽培されているカティモール系ハイブリッド種のアテンや、アテンとティピカの交配種と言われている「シガラウタン」などが使われています。
また、S系と呼ばれるインドからジャワ島を経由して導入された品種も見られます。
昼夜の寒暖差が10℃から15℃近くある高地で栽培される
マンデリンリントンの産地は標高1100~1600mの土地に位置し、火山灰性で有機物を多く含んだ肥沃な土壌です。
高温多湿ですが昼夜の寒暖差が10℃から15℃近くあり、この環境が高品質で独特な風味を生み出す一因となっています。
山地にはトバ・バタック族による野生のジャングルに近い環境での小規模栽培が幸いして、さび病や第二次大戦前後の混乱から生き残った樹齢60~70年にもなる木も存在します。
現在でも零細農家による栽培が行われており、ティピカ由来の栽培が難しい品種をシェードツリーを使って環境を整えながら丁寧に栽培する動きが広がっています。
栽培の歴史
マンデリンの産地である北スマトラ州でのコーヒー栽培は、1840年代にオランダの植民地政府による強制栽培制度が敷かれたことから始まります。
1870年代からジャワ島で始まったさび病が1908年にはスマトラ島にも上陸して、アラビカ種のコーヒーは壊滅的な被害を受け、多くの産地では栽培ができなくなったり、耐病性のあるロブスタ種へ切り替えたりました。
しかし、北スマトラ州のアンコラとマンダイリンでは強制栽培制度が続いていたことから一定の生産量が維持されており、1920~30年代の米国で「世界一のコーヒー」と高い評価を受けたことで「マンデリン」が有名になりました。
それを受けて、リントンニフタ郡を含むトバ湖周辺に生産が拡大したことが産地「リントン」の始まりです。
その後、アチェ州など新しい産地で栽培されたコーヒーも「マンデリン」と名付けて出荷されていたようです。
1940年代からは日本軍による支配、1965年のクーデターではプランテーション関係者の虐殺事件などにより、マンデリン発祥の地であるマンダイリンとアンコラのプランテーションは衰退していきました。
しかし、リントンニフタ郡を含むトバ湖周辺ではトバ・バタック族が栽培を細々と続けており、この地からマンデリンは復活を果たしました。
小規模栽培がゆえにさび病をまぬがれ、1920~30年代に評価されたマンデリンの古い木や子孫も残っていたためと考えられています。
現在マンデリンリントンの銘柄でティピカやティピカ由来の「ガロンガン」「オナンガンジャン」などをよく目にするのは、このような経緯があるためです。
マンデリンリントンのおすすめコーヒー3選
1.マンデリンリントン G1
価格 | 862円 |
内容量 | 100g |
1杯あたり(10g) | 86円 |
豆の産地 | インドネシア スマトラ島リントン |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | アテン、オナンガンジャン、シガラルタン、ジンベル、ウスダ |
焙煎度合い | 記載なし |
マンデリンらしい滑らかなコク・苦味・深みのある味わいと力強さが感じられますが、後味はさっぱりしていて飲みやすい印象です。
焙煎士は40年の経験を持つベテランで、焙煎中の香りが変わる2秒間を見極めて調整を行っており、優れたG1レベルの豆の風味を最大限に引き出しています。
販売元のニシナ屋珈琲は昭和8年に広島で創業した老舗のコーヒー店ですが、ネット通販では特に高品質、少量で入手困難な豆を扱っています。
2.マンデリンリントンG1 タイガーマウンテン
価格 | 760円 |
内容量 | 100g |
1杯あたり(10g) | 76円 |
豆の産地 | インドネシア北スマトラ州フンムバン・ハスンドゥタン県リントンニフタ及びドロクサングル |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | ジェンバー、アテン、オナンガジャン、USDA |
焙煎度合い | 浅煎り(ライト)〜深煎り(フルシティ) |
マンデリンリントンの産地であるリントンニフタ郡とドロクサングル郡で、零細農家から集められた豆の中から選りすぐりの集買業者を通して買い付けた商品です。
グレープフルーツとハーブの香味、マイルドなコクが特徴で、すっきりした後味が感じられます。
焙煎度合いを好みで指定できるのも楽しみが広がります。
3.LCFマンデリン リントンニフタ
価格 | 918円 |
内容量 | 100g |
1杯あたり(10g) | 92円 |
豆の産地 | インドネシア北スマトラ州フンムバン・ハスンドゥタン県リントン・ニフタ及びパランギナン |
精製方法 | スマトラ式 |
豆の品種 | ガロンガン |
焙煎度合い | 深煎り(フレンチロースト) |
この商品はLCFマンデリンのスペシャルティコーヒーです。
ハーブやスパイスといった刺激的で独特な香りと滑らかな口あたり、マンゴーのような甘みが感じられ、飲みごたえのある味わいです。
品種はティピカ由来のガロンガンに特定されています。
農家は皮をむいた状態の豆(パーチメント)を集買業者に引き渡すまで、豆の味わいを損ねないよう適切かつ迅速な扱いに注意を払っており、マンデリンらしい上質な風味を保っています。