今回は、スペシャルティコーヒーの概要と、基準や定義を簡単にわかりやすく解説します。
実は、日本のスペシャルティコーヒーには明確な基準や定義がありませんが、アメリカではカップ評価80点以上のコーヒーをスペシャルティコーヒーと呼びます。
日本とアメリカそれぞれでスペシャルティコーヒー協会が設立されていますが、両者の考え方は異なる部分もあるので詳しく解説します。
ブログ管理人:山口 誠一郎
コーヒーの専門家としてTV出演。文藝春秋(文春オンライン)コラム掲載。1,000種以上のコーヒー豆をレビュー。イタリア「Caffè Arena Roma」元バリスタ。
タップできる目次
スペシャルティコーヒーとは?簡単に解説
スペシャルティコーヒーとは、味や香りなどの決められた評価基準をくぐり抜け、コーヒー豆の生産体制や工程、そして品質管理が徹底された高品質のコーヒーのことです。
普通のコーヒーとの違い
普通のコーヒーとスペシャルティコーヒーの違いは流通量と品質にあります。
スペシャルティコーヒーは生産者(農園)を開示して情報を追跡できるようにし、徹底した品質管理がなされた上で生産されます。
流通量は少なく高価ですが、高い品質を持っています。
一方、スーパーなどで販売されている普通のコーヒー豆は、より多くの量を市場に流通させるために、農園や生産者に関係なくまとめて販売されます。
(全部「ブラジル」としてまとめて販売するなど)
安価で大量の豆を流通できますが、低品質の豆も混入するため、結果的に全体の品質が低下します。
この2つの味の違いは浅煎りや中煎りコーヒー豆を飲み比べると特に分かりやすいですが、香りの強さとフルーティーな味わい、渋みの少なさ、甘みとコクの強さなどが明らかに違います。
-
本当に美味しいコーヒー豆おすすめランキング76選【2024年】
続きを見る
スペシャルティコーヒーの定義と基準(点数)
先述のとおり、アメリカと日本ではスペシャルティコーヒーの定義が異なります。
アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)ではフレーバーや酸味、甘み、透明感などを評価し、100点満点中80点以上のコーヒーをスペシャルティコーヒーと呼んでいます。
日本では、2003年に設立された日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)によって再定義されています。
アメリカのスペシャルティコーヒーに対する考え方
そもそもスペシャルティコーヒーという言葉は、1982年に設立されたアメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)によって定められました。
SCAAは「教育と情報交換を通じて素晴らしいコーヒーを育成すること」を目的として活動する団体です。
わかりやすく言うと、
- コーヒー豆の品質を高めるため、栽培、収穫、精製、選別に関する知識を共有する
- すると、世界中のコーヒーの品質基準が底上げされる
- 結果的に、業界全体が繁栄して持続可能なコーヒー生産をできる
とSCAA(現SCA)は考えています。
つまり、より良い品質のコーヒーを作るために生産段階から品質管理を徹底することが重要だと考えているのです。
出典:SCA
日本のスペシャルティコーヒーに対する考え方
一方で、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)はコーヒー液そのものの品質を重要視していて、消費者が手にする液体としてのコーヒーのおいしさを求めている点がアメリカと異なります。
スペシャルティコーヒーとはどんなコーヒーか
消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
SCAJでも「カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。」と、生産段階についても触れています。
しかし、その後に「適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。」と続きます。
つまり、アメリカでは消費者に渡る前(生産過程)を重視していますが、日本では消費者に渡った後(カップの中のコーヒー)を重視していることが分かります。
ちなみに、ヨーロッパのスペシャルティコーヒーに対する考え方も日本に似ていて、「ミルクを入れた後でもコーヒーの風味や味を感じられるものがスペシャルティコーヒーである」という考えです。
このように各国でスペシャルティコーヒーの定義は違いますが、「生産履歴が明確である(トレーサビリティがある)」という点はどちらも共通しています。
スペシャルティコーヒーの評価基準
スペシャルティコーヒーのカップ評価は、香り、酸味の質、ボディ(コク、質感)、甘み、バランスなどにより判断されます。
もちろん、普通のコーヒーでもテイスティングは品質を評価する重要な方法ですが、スペシャルティコーヒーは「クリーンさ」がより重視されます。
「クリーンさ」とは、その産地の特徴(テロワールと呼ばれる)を損なうフレーバーの「濁り」がないことを指します。
わかりやすい具体例では欠点豆の混入です。
「カビ豆」などの欠点豆が数粒でも混入していれば味全体が濁る原因となり、クリーンな感覚から外れていきます。
他にも、スペシャルティコーヒーと評価されるのに重要な項目が次の5つです。
香り | スペシャルティコーヒーのカップ評価では、豆を挽いて抽出し、口に入れる3つのシーン全ての香りをジャッジします。特にアロマやフレーバーの移り変わり方を吟味します。 |
酸味 | 明るい爽やかな酸味がどれ程であるかが評価対象になります。酸度の強さではなく、酸の質についてジャッジします。 |
ボディ | コクのことを英語で「ボディ」と表現します。飲んだときに層が重なり合って感じられる場合に「良質なコク」とジャッジします。 |
甘さ | コーヒーチェリーの熟度と熟度の均一性をジャッジします。甘さを阻害する欠点の有無も評価します。 |
バランス | 味全体の調和が取れているか?突出するものは無いか?何か欠けているものは無いか?この3つを評価します。 |
-
コーヒーの欠点豆とは?種類と見分け方、どんな味か実際に飲んでみた
続きを見る
スペシャルティコーヒーが生まれた背景
スペシャルティコーヒーの提唱者Erna Knudsen(エルナ・クヌッセン)女氏
「スペシャルティコーヒー」という概念がはじめて提唱されたのは1978年です。
スペシャルティコーヒーが普及した背景には、コーヒー大量消費時代の「とにかく大量生産すればいい」という考え方による、まずいコーヒーの普及が関係しています。
1960年代から1970年代前半にかけて、アメリカはコーヒーの大量消費時代に突入し、需要に応えるためコーヒーの品質を度外視した大量生産が行われるようになりました。
大量生産されたコーヒーは次第に供給過多となり、メーカー間の価格競争が激しくなり、コーヒーの価格は低下していきます。
これによって被害を受けたのはコーヒー生産者です。
低価格化によってコーヒーのブランド力が低下し、生産者の収入は減少します。
農園を管理するための資金も少なくなり、コーヒーの品質も大きく低下しました。
そんな中、1978年にフランスで開催された国際コーヒー会議で「スペシャルティコーヒー」という概念が初めて提唱されます。
その後、時代の流れとともに、コーヒー業界の存続を危惧する消費者や「本当においしいコーヒー」を求める消費者の声が大きくなり、スペシャルティコーヒーが求められるようになりました。
こうした歴史的背景から、スペシャルティコーヒーは単に高品質であるだけでなく、サステナビリティやトレーサビリティなど、業界を守るための視点も含んだ概念となっていることが分かります。
アメリカスペシャルティコーヒー協会とは?(SCAA)
SCAAとは、Specialty Coffee Association of Americaの略で、世界で最も早く設立された非営利のコーヒー団体です。
「教育と情報交換を通して素晴らしいコーヒーを育てること」を目的とし、1982年に小数のコーヒー専門家集団によって設立されました。
SCAAは生産者、焙煎業者、輸出入業者、小売業者などスペシャルティコーヒー業界のさまざまな専門家が加盟し、世界40か国以上に会員を持ちます。
2017年1月には、アメリカスペシャルティコーヒー協会とヨーロッパスペシャルティコーヒー協会(SCAE)が合併して「SCA」になりました。
SCAには10,000人を超える会員がいます。出典:wikipedia
日本スペシャルティコーヒー協会とは?(SCAJ)
SCAJは東京都港区新橋に本部があり、生産から焙煎まで、品質管理を徹底して行なっているスペシャルティコーヒーの理解を深めるために活動している団体です。
活動内容としては、スペシャルティコーヒーの研究や調査、認知度をあげるためのセミナー活動や、教育、認定制度などを行っています。
コーヒーの資格である「コーヒーマイスター」を発行している機関でもあります。
スペシャルティコーヒーとサステナビリティの関係
スペシャルティコーヒーにおけるサステナビリティとは、生産者の賃金保障はもちろん、環境配慮や社会倫理の配慮についても含まれています。
「コーヒー生産者の生活を奪わない生産体制の確保」という観点はスペシャルティコーヒーの大きな特徴です。
スペシャルティコーヒーとトレーサビリティの関係
スペシャルティコーヒーは農園から消費者に渡るまでの徹底した品質管理がされていなければなりません。
それを実現するために欠かせないのが「トレーサビリティ」です。
コーヒーにおいてのトレーサビリティは、生産から流通までが明確で追跡ができることを指します。
流通経路が明確にされることで生産者が分かり、コーヒーの品質に強い信頼性が生まれます。
高品質であることがとても重要な条件であるスペシャルティコーヒーとトレーサビリティは親密な関係にあります。
-
ダイレクトトレードコーヒーとは?
続きを見る
スペシャルティコーヒーに関連するワード
スペシャルティコーヒーとサードウェーブとの関係
▲サードウェーブコーヒーの先駆者「ブルーボトルコーヒー」
サードウェーブという言葉は、喫茶店文化など、コーヒー文化の歴史を踏まえた上での「これからのコーヒーの文化」を示すものです。
世界的な流れとして、コーヒーの地位向上というものがあります。
スペシャルティコーヒーは「高品質」と「付加価値」を目指していく観点を持っている一方で、サードウェーブコーヒーは「コーヒーを飲む時の体験の重視」という観点を持っています。
このようにコーヒーの価値を追求するという点では共通点があるのです。
-
ブルーボトルのコーヒー豆おすすめ10選!実際に飲んで美味しかったのはこれ
続きを見る
カップオブエクセレンス(COE)
カップオブエクセレンスとは、1年で特に優れた品質のコーヒー豆を決める品評会のことです。
ここで最高品質の「トップオブトップ(Top of Top)」と呼ばれるコーヒーが選ばれるため、世界中のバイヤーたちが特別で高品質の豆を落札しようと参加します。
カップオブエクセレンスでの最終的な落札価格はそのまま生産者の利益に繋がるため、良質なコーヒー栽培への意識も高まります。
また、入賞するとバイヤー達と継続的なつながりが生まれることもあります。
このように継続的な関係の構築のためにもカップオブエクセレンスは機能しています。
-
【COE】カップオブエクセレンスとは?歴代や通販で買えるおすすめも紹介!
続きを見る