コーヒーのさび病とは、コーヒー生産者の中で最も恐れられている病害のひとつです。
最悪の場合、2〜3年でコーヒーの木が枯れてしまうこともあります。
この記事では、18世紀から続くコーヒーの「さび病」との戦いの歴史をはじめ、コーヒーのさび病以外の病気、コーヒーの未来を守るために行われている対策まで解説していきます。
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コーヒーのさび病とは
「破壊的なコーヒーの病気」として、コーヒー生産者からもっとも恐れられている病害「さび病」。
通称「さび病菌(Hemileia vastatrix)」と呼ばれる空気感染するカビの一種で、感染力が非常に強いことが特徴です。
風によって木から木へ、人の手や衣服に付着することで農園から農園へと運ばれたさび病菌がコーヒーの葉に付着すると、菌糸を広げ、葉肉を浸食します。
そうして、葉が光合成機能を失ったコーヒーの木は2~3年で枯れることもあるのです。
長い年月をかけて育て、収穫期にはたくさんのコーヒーチェリーを実らせることが期待されていたコーヒーの木が失われていく。
その様子をなすすべもなく見守るコーヒー農家は、どれほど絶望的な気持ちでしょうか。
かつて、ひとつの生産地を一変させたこともあり、コーヒーの未来をも脅かしかねないほど脅威的な「さび病」ですが、いまだ最適な解決策を見出せていないのが現状です。
コーヒーのさび病の歴史(年表)
さび病は1829年から長い年月をかけて、セイロン(現在のスリランカ)から世界中のコーヒー生産地に広がりました。
19世紀にアジア太平洋地域での封じ込めに成功したかに見えましたが、20世紀になるとアメリカ大陸を中心にさび病の被害は拡大していきます。
1869年 | セイロン(スリランカ)にて、さび病の最初の流行が記録 |
1990年代 | さび病に強い品種への植え替えなどの対策を行い、アジア太平洋での病害がほぼ制御される |
2000年代 | アメリカ大陸にさび病が上陸。被害が拡大していく |
2008年 | コロンビアでさび病が発生。生産量が前年比で31%減少 |
2012〜2014年 | 中米全体のコーヒー生産量が17%減少(2,020万袋から1,680万袋へ減少)※ |
2014年 | さび病被害が北上し、コロンビアの一部で重大な損失 |
2014〜2015年 | さび病被害が南下し、エクアドル、ペルーで重大な損失 |
※中米の生産量減少率:メキシコ9.5%、コスタリカ10%、ホンジュラス・エルサルバドル45%減少。国際コーヒー機関(International Coffee Organization)は、このさび病が中米に与えた損害は6億1,600万ドル以上だと推定している。
2011年3月から2013年12月までのわずか2年ほどの期間で、中米からのコーヒーの輸出額は半減しました。
ちょうどこのタイミングに、コーヒーの価格が急落します。
さらに、さび病対策のための殺菌剤や肥料の価格上昇も重なり、アメリカ大陸のコーヒー農家は深刻なコストの圧迫に陥りました。
日雇い労働者の需要は3分の1に減少し、雇用を得られた労働者の賃金についても20%低下したとの統計も出ています。
では、コーヒーのさび病への対策とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
コーヒーのさび病への対策
さび病への具体的な対策として、以下の4つが挙げられます。
殺菌剤の使用 | 銅殺菌剤などを使用しさび病を防ぐ。散布する際は、耐性を考慮して殺菌剤の種類を変える必要があり費用対効果が課題となっている。 |
徹底した衛生管理 | さび病はカビ菌の一種であり、空気感染や接触感染を起こす。そのため、必要以上に農園に入らない、手洗いや衣類の洗濯を徹底するという基本的な衛生管理が効果的。 |
コーヒーの木に十分な栄養を与える | 「窒素」「リン」「カリウム」はコーヒーの木の生育に欠かせない三大栄養素。この栄養素をバランスよく与えることが重要。 |
さび病に強い品種を栽培する | 病害に強い「ロブスタ種」を栽培する。または、耐病性の高い新品種の栽培をする。 |
「ロブスタ種」は、病害だけでなく干ばつにも強く栽培しやすい反面、アラビカ種に比べて風味が洗練されていません。
低価格で販売される傾向にあるため、スペシャルティコーヒーに求められる繊細な風味をもち、かつ、病害に強い品種を開発することがコーヒー生産地にとっての重要な課題となっています。
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続いて、コーヒーのさび病に強い品種の一部を紹介します。
コーヒーのさび病に強い品種
カトゥーラ(カツーラ) | アラビカ種のひとつ「ブルボン」の変異種。日光、さび病に強いのが特徴。主に中南米で栽培されている。程よい酸味と強い渋みが特徴。 |
バリエダコロンビア | ロブスタ種とアラビカ種の自然交配種「ハイブリッドティモール」と「カトゥーラ」が交配された品種。さび病に強く生産性が高いが、ロブスタ種の性質が強くやや雑味が目立つ。コロンビアで主に生産されている。 |
カスティージョ | 「バリエダコロンビア」のさび病耐性を残しつつ、アラビカ種に近い風味になるよう開発された品種。研究の成果が実り、コロンビアコーヒーの品質に復活の兆しが見えたとされる品種。 |
カティモール | 「ハイブリッドティモール」と「カトゥーラ」の交配種。さび病に強く、低地栽培に向いている。生産量が高いのも特徴。 |
カツカイ | さび病に強く、生産性が高い。ブラジルで生産され、さび病に強い品種「イカトゥ」と、生命力が強い「カトゥアイ」の自然交配種。 |
さまざまな品種がありますが、さび病の型はひとつではないため、全てのさび病の型に強い品種というものはいまだ存在していません。
さび病耐性があり、品質も高い新品種の開発は今日も続けられています。
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そして、コーヒー生産地を脅かす病害はさび病だけではありません。
さび病以外のコーヒーの病気
CBD(炭そ病)
コーヒーの実が壊死して黒い斑点が現れ、コーヒーチェリーが熟す前に落ちてしまう病気です。
さび病と同じく菌が原因となって発症し、最終的にはコーヒーの木全体に広がります。
ケニアで初めて報告され、その後アフリカ大陸全土に蔓延しました。
今のところアフリカ大陸での封じ込めに成功していますが、農薬以外の有効な対処法が見つかっていないため、他の生産国からも恐れられている病気のひとつです。
霜害
ブラジルや高地の農園では、冷たい雨風が吹くと霜が降りる場合があります。
霜で葉の表面が茶褐色に枯れてしまい、翌年の収穫期に新しい実がつかなくなるだけでなく木が枯れてしまうこともあります。
コーヒーベリーボーラー
アフリカ原産の害虫「コーヒーノキクムシ」の幼虫がコーヒーの実に侵入し、生豆を食い荒らします。
2010年頃にはハワイで発生し、甚大な被害を受けたコナコーヒーの価格が高騰しました。
対策としては検疫の強化や殺虫剤の使用が挙げられますが、最悪の場合、植え替えが行われることもあります。
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さび病に対するスターバックスの活動
最後に、コーヒー業界を牽引する企業「スターバックス」がコーヒーの未来を守るために行なっている活動をいくつか紹介します。
1.さび病でダメージを受けたコーヒー農家に苗を無償で提供
米国内の店舗でコーヒーが1袋売れるたびにスターバックスが開発したさび病に強い「コーヒーの苗」を1本無償で提供するという「Starbucks One Tree for Every Bag」キャンペーンを、2015年から展開しています。
スターバックスでコーヒーを飲むことがコーヒー生産者の応援につながる「利用者参加型」のキャンペーンで、2025年までには1億本の苗を農家に提供することを目標にしています。
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2.さび病耐性の高いハイブリッド品種を開発
コスタリカにあるスタバの自社農園「ハシエンダアルサシア」では、アグロノミスト(農学者)のリーダーを中心に、遺伝子組み換えではなく接木や植え替えによって、気候変動に対応できる品種やさび病耐性の高い品種を開発をしています。
2017年には、さび病に抵抗力のあるハイブリッド品種「ハシエンダ・アルサシア・コーヒー」を発表しました。
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日本ではコーヒーショップに入るだけで、いつでも安定した価格で美味しいコーヒーが飲めます。
この恵まれた環境ではつい忘れてしまいがちですが、この幸せはコーヒー生産地での過酷な戦いや絶え間ない努力の上に成り立っているのです。